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『じゃあ、そういう訳だから頑張れよ息子。』
「頑張れよってちょっとおいっ!!」

 ガチャッ、プーッ、プーッ、プーッ……

 うわ、あの親父本当に切りやがった……。
 項垂れながら受話器を戻す。
 背後を振り向くと、珊瑚ちゃんがとても嬉しそうに微笑んでいた。

「な?ちゃ〜んと話通っとったやろ?」
「あぁ、うん……確かにね」

 確かに親父もお袋も俺が姫百合家に引越しして生活する事に賛同していた。
 常識的に考えれば有り得ないだろうと思いたいのだが、どうやら珊瑚ちゃんが研究所の主任である長瀬博士を動かしたのが原因らしい。
 今までのメイドロボシリーズとは全く異なったコンセプトを用いて製作された機体であるHMX-17は、やはり現状としてどうしても実験結果や実働情報
が不足している。
 研究所からしてみれば実験データは多ければ多いほど、それも一般家庭での実用結果があればあるほどいいに越した事は無いわけで。
 既に現状HMX-17の開発者である珊瑚ちゃんの家に試作一号機であるイルファさんが配備されてはいるが、実は姫百合家でのデータだけでは確定
的に不足しているデータがある。
 それが、『男性との接触』に関連する事項である。
 なにせ姫百合家は現在珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの2人暮し。つまり男性が居ないのだ。
 一応イルファさんもクマ吉も研究所で男性との接触(というかまぁお手伝い体験みたいなことなんだけど)はあるのだけれど、 研究所でのデータと実生
活でのデータは全くといっていいほど別物であるので、やはり研究所側としては実際に男性の世話をした場合の実測データが欲しいらしい。
 で、俺はHMX-17の開発者である珊瑚ちゃんと仲の良い一般的な男子高校生なわけで。
 都合よく両親不在で1人暮らししている上に試作二号機であるミルファがリモートコントロール実験をしている時に知り合ったという事もあり。
 実測データを得る為に最適な相手という事で見事引越し&同居の口実が出来上がったわけだ。
 両親にしてみても1人暮らしで息子の生活が乱れないかと心配はやはりしていたようで、最新型のメイドロボをしかも無償で使用出来るとあって、二つ
返事でOKを出したらしい。
 実験も伴っているという事で開発者と同居するという事も問題では無かったようだ。
 幸いというか学校までの距離もさほど変わらない事だし(両親の一番の心配所はむしろそこだったらしい)。
 尤も、長瀬博士が話を進めたのだから両親はまさか一介の女子高校生がそうなのだとは思ってもいないかもしれないが……。
 まったく、嵌められたという感想がしっくりきてしまう。
 別に珊瑚ちゃんたちを恨んだりしたいわけではないが、それでもせめて事前にちゃんと言ってほしかったな、とは思う。
 いくら珊瑚ちゃんたちに振り回されるのに慣れて来たとはいえ、今回のはそもそもそういうレヴェルの話じゃない。
 珊瑚ちゃんたちの家に居候になる(という言い方も正しくないんだろうけど)ってことはやっぱり大事なわけで。
 実測データの収集に協力したくないわけじゃない。けど、やっぱり順番ってものが必要だとも思う。
 ……などと思いつつも。

「貴明さん、もしかしてご迷惑……でしたでしょうか……?」

 こちらの様子に気付いたのか、イルファさんがこちらの顔色を窺うように訊ねて来る。
 その不安げな様子を見ると、もう反論する気力は一気に失せた。
 あぁ、認めよう。
 正直、予想外の出来事ではあるけれど、確かに皆と一緒に暮らす事になったのはとても嬉しい事だ。
 もう会えないかと半分諦めていたクマ吉にまた会うことが出来たのだって凄く嬉しい。
 唯一、タマ姉たちにバレた時が恐ろしいけれど、それだってきっとなんとかなるだろう。
 そう考えると、なんだか急に楽な気分になった。

「いや……うん、そんなことはないよ」

 姫百合家一同に向かって笑いかけてから、居住まいをただす。

「えっと……なんかあらたまるのもアレだけど、これからよろしくお願いしますってことで」

 こういうときにどうしたらいいのかわからないのでとりあえず一礼する事でけじめをつけてみる。
 その様子がおかしかったのか、イルファさんはくすくすと笑いながら「こちらこそ」と答えていた。




















 To Heart2  Side Stories
 Dream Life  第2話 『クマ吉』と『ミルファ』




















「じゃあ話も纏まったところで早速歓迎パーティや〜」

 俺が頭をあげると、珊瑚ちゃんは待ってましたとばかりに冷蔵庫からジュースやら何やらを取り出し始める。
 それに続いてクマ吉とイルファさん、瑠璃ちゃんも準備を始め、テーブルの上はあっという間に歓迎会の準備が出来てしまった。





 その日はそのままどんちゃん騒ぎで皆酔いつぶれてしま……うのかと思いきや。

「たかあき〜、歓迎のちゅーしたるな」
「ち、ちょっと珊瑚ちゃん?!ストップ、ストップ!」
「珊瑚様駄目っ、貴明様とちゅーするのは私なのっ!これだけは譲らないからね!!」
「ミルファ……えらく積極的やな」
「ミルファは研究所で貴明さんにお会いできることだけを楽しみにしてましたから。ところで瑠璃様はちゅー、なさらなくてよいんですか?」
「な、な、なななっ、う、ウチは別にっ!」
「今日は特別な日ですから二度までならちゅーしてもいいですよ」
「い、一度も二度もないぃーっ!!!」
「そうですか?では私は貴明さんにお祝いと歓迎のちゅーをしてきますね」
「ってそっちはそっちで何を話してるんですかっ?!」

 甘かった。
 修学旅行の間は接することが無かっただけにそこらへんの考えが非常に甘くなってた。
 ただでさえ何日も離れてたからこうなることは予想できてたはずだったのに。
 そうして2人に迫られながら自分の甘さを後悔していると、先ほどの宣言どおりイルファさんまで乱入して来た。

「あぁぁっ!イル姉も駄目ぇっ!大体、イル姉には瑠璃様がいるじゃないっ!!」
「残念ですがミルファちゃんの意見は却下です。だって私、貴明さんに責任を取っていただかないといけませんし。ねぇ?」
「せ、責n「どういうことですか貴明様っ?!」」

 ニコニコと。
 いや、ニヤニヤという表現のほうが適切かもしれないくらい狙い済ました笑みでイルファさんは爆弾発言を飛ばす。
 しかもそれに対して俺よりも高速にクマ吉が反応する。
 流石は来栖川研究所の最新鋭機。反応速度が並じゃない……ってそんな場合じゃなくて!
 なに、この状態。俺脱出不能な気がするんだけど……。

「オ、オチツケ?マ、マズハオチツイテハナシアオウジャナイカ?」
「私は充分に落ち着いてるよ!」
「私もですよ、貴明さん」

 がおー、という威嚇の擬音がぴったり嵌るくらいにお怒り心頭らしいクマ吉。
 そしてそれとは対照的に恐ろしく爽やかな笑みを浮かべていらっしゃるイルファさん。
 自分が追い詰められてる状況なのにアレだが、クマ吉……完璧にイルファさんに遊ばれてるよ。
 うーん、最新型メイドロボの長女の位は伊達ではない、ということだろうか?

「……う、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜」

 ぞくぞくぞくぞくっ!!

 クマ吉+イルファさん(+珊瑚ちゃん)のプレッシャーに後ずさりしてきた所で、悪寒が背すじを走り抜ける。
 それと同時にとある一方向からとんでもない殺気がこちらに向けられているのに気付いた。
 この場に残っている人間は後一人。

「た、貴明の……ごぉかんま〜〜〜っ!!!」
「っ!!」

 視界の隅に瑠璃ちゃんが右脚をテイクバックした様子が入ったと同時にいつもの罵声が飛んでくる。
 如何に慣れてしまったとはいえ、痛いものは痛い事を重々知っている俺は思わずダメージを抑えるために体に力を込めて目を瞑った。

 …………?

 しかし、肝心の衝撃はいつになっても五体の何処にもやってこない。
 不思議に思って目を開けると、瑠璃ちゃん渾身の右回し蹴りを、俺の眼前でクマ吉が見事に受け止めていた。

「……へ?」
「瑠璃様、貴明様への暴力は許しません」
「な……」

 先程までの怒りは何処へやら、クマ吉は一瞬にして主人への脅威を防ぐべく俺と瑠璃ちゃんの間に立ちはだかる。

「わ、悪いのは貴明やもん!」
「確かに貴明様の女癖は少々よくないみたいだけど……それとこれとは別です」

 ……クマ吉さん、助けてくれたのは嬉しいんだけどなにか酷い事言ってないですか?

「うぅ〜〜〜っ!!」
「と、とにかく助かったよ。ありがとな、クマ吉」

 これ以上ややこしい事にならないうちに場を諌めようとクマ吉に声をかける。
 感情の収まりがつかずに未だこちらを睨んでいる瑠璃ちゃんは申し訳ないけどちょっとだけ放置させてもらおう。

「と、当然の事だもん。お礼なんか言われなくたって……その」

 クマ吉は僅かに頬を緩ませながら返事を返す。
 だが、そんなクマ吉とは対照的に、イルファさんが何か言いたげな表情でこちらを見ていた。

「……あの、貴明さん?」
「な、何?」

 やはり予想は当たっていたらしくイルファさんがおずおず、といった感じで話しかけてくる。
 あれ、俺なんか間違ったことしたっけ?

「貴明さんはミルファちゃんの事を『クマ吉』と呼んでらっしゃるんですか?」
「え、あ、う、うん……そうだけど」
「駄目です!!」

 突然、イルファさんがけんもほろろに怒り出した。

「以前のリモート実験の時ならわかりますけど今のミルファちゃんは私と同じ人型のボディになっているんです。それなのにそんな女の子を例え愛称で
もくま呼ばわりなんて許せません!!」
「え、え?」
「い、イル姉、私は別に……」
「いいえ駄目です!それに相手が大事な人なら余計に愛称ではなく名前で呼んであげないと!」

 クマ吉の静止も聞かず頑なに意見を押し通すイルファさん。
 普段から怒る事が少ないだけにその迫力もすごいものがある。

「そうやそうや!貴明はちゃんとミルファのこと名前で呼びいや!」
「ん〜ウチはどっちでもえぇと思うけど……なんかみっちゃんだけ愛称でウチらが名前やとちょっと不公平な気はするなぁ」

 姫百合家のお姫様’Sもイルファさんサイドについて、イルファさんの後ろから同じように攻め寄ってくる。
 というか瑠璃ちゃん怒ってたんじゃなかったか……?

「貴明さん!」
「貴明!」
「貴明〜?」

 前門の虎、後門の狼、横門の小悪魔(?)。
 逃げ場は無いと解りながらも視線を泳がせると、クマ吉と目が合う。
 助けを求めようかと思った瞬間、クマ吉はすばやい動きで目線を逸らしてしまった。
 その間にも3人はじりじりと詰め寄ってくる。

「さぁ、貴明さん」
「たーかーあーきー」
「たかあき〜☆」
「わ、わかった!わかったからちょっとタイム!!」

 至近距離まで近づいてきた所であえなくギブアップ。うぅ、我ながら情けない……。

「いいえ、タイムは認めません。早速実証して頂きます」
「実証や〜☆」
「マジですか!」

 イルファさんと珊瑚ちゃんの2人で俺を囲んでいるうちに瑠璃ちゃんがクマ吉を連れてくる。
 打ち合わせした訳じゃない筈なのになんでこんな息があってるの?!

「え、えっと……」
「…………」

 周りの視線と妙な気恥ずかしさが手伝ってなかなか言葉が出てこない。
 対面に立しているクマ吉も同じようで、頬を紅く染めたまま何もしゃべろうとしない。
 2人で向き合ったまま無言の時間が流れていく。
 い、いかん、何か喋らないと……

「ま、まぁその何というか……こ、これからよろしくってことで」

 しどろもどろになりながらなんとか言葉を捻り出す。
 なんか言葉が雰囲気に合ってない気がするけどこの際無視だ。

「……み、ミル……ファ」
「あ………は、はいっ!!」

 恥ずかしさを押さえ込んでなんとか名前を呼ぶ。
 かなりどもった言い方だったが、それでもクマ吉―――ミルファは嬉しそうに微笑んでいた。
 ……なんか流れとしては強引だったけど、ミルファが喜んでくれるのならそれはそれでいいか。
 思わずそう思ってしまうくらい、ミルファの微笑みは魅力的に見えた。




《後書き》 リライト第2話〜。 あんまり直すところが無かったなぁとか。 個人的にミルファの口調は今の方が可愛いと思うのですがどうでしょうか。 まぁイルファさんと珊瑚ちゃんにはかなわないんですがね!(ぉ 2007/10/07 改定 2007/10/07 再UP 拍手ボタンです。何か思うところありましたらポチっとどうぞ。 もどる