ため息を吐きながらちらり、と後ろを振り返る。
 そこには傍から見ても異常だと認識できるほどの殺意を纏った二木さんが居た。
 彼女の視線はというと、それはもう間違いないくらいに僕を射抜いている。
 何せ1時間目の休み時間からずっとだから間違いない。

 「ひっ……」
 「うおっ!?」

 周りの生徒たちも思わず後ずさるほどの迫力で二木さんはこちらを睨んでいる。
 2時間目の休み時間に教室に来た葉留佳さんは、「あんなお姉ちゃん見たこと無い」と怯えていた。
 来ヶ谷さんや恭介が相対を避けたことからも、その迫力の異常さは読み取れる。

 「…………」

 何よりも解らないのは、何故二木さんが僕を目の敵にしているのか、ということだ。
 昨日雨が降ってるときに傘を貸したり、夕飯後に返してもらったりはしたけれど、何かしら怒らせるようなことをした覚えは無い。
 敢えて他に何かあったかと思い返しても、傘を返してもらったときに数十秒ぐらいじーっと見られただけだ。
 そのことにしたって、彼女の方から「忘れろ」と言っていたのであって、翌日の学校に、しかもこれほどの状態で引きずる理由は何も無い……筈だ。

 「あ、あのー……」

 それが今日最大の過ちとも知らずに、僕はとうとう振り返って声を掛けた。


 「……何かしら、直枝理樹」

 酷く静かな声で彼女は言葉を返す。
 けれども、その威圧感は恐ろしく強い。
 最終型まで変身したフリーザと戦った時のべジータもこんな気分だったんだろうか。

 「よ、良かったらどうしてずっと僕の後をついてきてるのか……教えて……ほしいんだけど……」

 最後の方が尻切れトンボになってしまったのは正直勘弁して欲しい。
 だって怖いんだもの、二木さん。

 「どうして、ですって……?」

 あ、まずい。
 何かは解らないけれど、確実に今僕は地雷を踏んだらしい。
 二木さんのオーラが赤色からレインボーに変わったように見える。

 「……ふ、ふふ……そう、そうよね。貴方には理由なんて解らないわよね?」
 「そ、そそそそうだね?」

 冷や汗が止まらない。
 本能はさっきからずっと今すぐ逃げろという警告を五月蝿いくらいに出している。
 けれども肝心の足が動いてくれない。
 まさにヘビに睨まれたカエルだ。

 「ならば解らせてあげるわ、直枝理樹。放課後……寮生室まで来なさい」
 「……は、はい」
 「解ってると思うけど、逃げた時は……」

 全力で首を横に振る。
 二木さんはそれを見て満足そうに頷くと、踵を返して自分の教室へと戻っていった。
 後に残された僕は、壁に寄りかかりながら、放課後が少しでも遅くなりますように、と願うのだった。




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