「んんっ……」 カーテンの隙間から差し込む太陽の光。 その眩しさで、俺は目を覚ました。 「…………?」 俺が目を覚まして一番最初に目に入ったもの。 「……すぅ、すぅ……」 俺のすぐ脇で静かな寝息を立てている名雪だった。 う〜ん、やっぱり名雪の寝顔って可愛いよな〜…… じゃないっての!! 何で名雪が俺のベッドで俺と一緒に寝てるんだ!?? しかも、その……ちっちゃいし 【ちっちゃいって事は、素敵だね♪】 俺はまだ覚めきっていない頭をフル回転させて昨日の記憶を呼び覚ます。 あぁ、そっか…… そういや、昨日名雪がいきなりちっちゃくなってて…… 一緒に寝たいって言われたんだっけな…… おまけに、「お兄ちゃんみたい」とか言われたし…… 名雪の『お兄ちゃん』、か…… それはそれで、いいかもな…… 穏やかな寝顔をしている名雪の奥にある時計に目を見やる。 俺愛用(当然、名雪の声入りのアレだ)の目覚まし時計の針は、既に八時を廻っていた。 「やべっ!??」 思わず布団を跳ね除けて起き上がる。 普段ならすぐさま超スピードで着替えを済ませる所なのだが、今日は勝手が違った。 何故ならば…… 「俺のすぐ横には『眠り姫』がいるからだっ!!」 誰にする訳でもなく、ビシッ!と指を指してポーズをとる俺。 ……俺は誰に向けてやったんだ? 馬鹿馬鹿しい…… 俺は、とりあえず今の謎な行動は忘れて『眠り姫』を起こす事にした。 「名雪、起きろ〜」 とりあえず肩を掴んでゆさゆさと揺らしながら名前を呼んでみる。 「うにゅ……くぅ」 だが、当然(?)この程度でコイツが起きる訳も無い。 「おいっ、名雪!!」 今度は強めに揺すり、声量も上げてみる。 上手くいけばこれで起きるのだが…… 「ふにゅ……くぅ、すぅ」 今日の『眠り姫』は想像以上に手強かった。 ぬぅ、これでも起きんとは…… どうするか……時間もないぞ? 瞬間的に様々な考えを巡らせては打ち消していく。 と、ふと名雪の小さくて可愛い唇が目にとまった。 瞬間、俺の脳裏に悪魔の如き考えが浮かぶ。 ……やるか? 俺は心の中で天使と悪魔に問い掛けた。 祐一デビル『構うこたぁねぇ、やっちまえ!!時間も無いんだろう?』 祐一エンジェル『ここは、学校に間に合わせる事を最優先すべきです』 ……満場一致で決定した。 俺は体を名雪の方に向き直させると、右手で髪の毛を撫でるようにしながら、後頭部 を支えた。 そのまま、ゆっくりと顔を近づけて…… (ちゅっ) ―5秒経過― 「ん……」(まだ寝ているらしい) ―10秒経過― 「んんっ……んっ……」(段々苦しくなってきた) ―15秒経過― 「ん…んんっ!?」(目が覚めた) (お、お兄ちゃん!??) どうやら目覚めてくれたらしく、名雪は驚いた目をしてこちらを凝視した。 (……何をやってるの?) 目で何かを訴えているようだが、今の俺には、それすら可愛く見えて仕方ない。 おまけに名雪もしっかりと唇は離していないのだから、余計に効力がない。 ……!! そんな名雪に対して、俺がイタズラ心を持ったのも、しょうがないだろう。 既に理性が殆ど働いていなかった俺は、すぐさまソレを実行に移した。 (にゅる……) (何時まで……んぐっ!??) 名雪の口内に自らの舌を侵入させて、口の中を弄ぶ。 いわゆる『ディープキス』と云うヤツだ。 「ん、んんっ、んぐっ!!」 (お、お兄ちゃんの舌がぁ……) 名雪の頬が大分紅潮している。 恥かしがっては居るものの、拒むつもりはないようだ。 それなら……♪ (にゅぷ、にゅる……) 「んん、ぐっ!??」 今度は更に奥の方へと舌を這わせて、そのまま口内を舐め回す。 その状態がしばらく続いた。 (お、お兄ちゃん……っ) (にゅぷ、ぬる……) おっ? とうとう名雪の理性にも限界が来たのだろうか。名雪も己の舌を絡ませてきた。 これなら、最後マデ…… と、そう考えた所で、俺の視界にさっきの目覚ましが飛び込んできた。 今現在、時計の針が指し示す時刻は―――8:16 うげっ!??もうこんな時間かよっ!? 俺は渋々名雪から唇を離す。 「ん、んんっ……えっ……お兄ちゃん……?」 突然唇を離した俺を食い入る様に見つめる名雪。 そのつぶらな瞳に涙を溜めて、上目遣いでこちらを見やる。 ぐぁ……また何とも切なげな表情を…… せっかくの決心が鈍りそうだ。 「ほ、ほら着替えて来い。学校に遅刻しちまうからっ」 俺は慌てて名雪に説明する。 名雪は、チラリと時計を見ると、「うん……。判ったよ、お兄ちゃん」と寂しそうに 言って部屋を出ていった。 「ふぅ……」 名雪がドアを閉めたのを確認してから、俺は深い溜め息を吐いた。 と、とりあえず、キスした事は怒らなかったみたいだな。 無理やり誤魔化しただけ、とも言うかもしれないが…… それにしても、やっぱり勿体なかったかな……? 少しだけ(ホントにほんの少しだけ)後悔しながら、俺は着替えて下に降りていった。 「おはようございます、祐一さん」 「あ、おはようございます。秋子さん」 キッチンでは、秋子さんがいつものように朝食の準備を終えて佇んでいた。 「朝ごはん、どうしますか?」 「あ、と……すいません、今日はいいです」 俺は申し訳なく思いながら言う。 「そうですか。じゃあ、頑張って遅刻しないようにして下さいね」 「はい」 何も聞いてこない秋子さんに苦笑しながら、俺はそう答えた。 尤も、あんなコトまでしなければ、一応朝ごはんは食べる時間はあったのだが。 ……色んな意味で失敗だったな、やっぱり 後から降りてきた名雪を無理やり引っ張って学校へ走りながら、俺はそんな事を考えた。 戻る