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Handmade Birthday 


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「祐一さん、飾りつけの方、終わりましたか?」

 キッチンの方から、佐祐理が顔を覗かせた。

 いつもは何てことのないリビングは今、祐一の手によって美しく彩られている真っ最中で

 ある。

「もうちょっとなんですけど……こんな感じでいいんですか? 俺、男だからこういう事

 よく判らなくて……」

「あははーっ、大丈夫ですよ〜。祐一さん、すっごく上手に装飾出来てますよ〜」

 リビングを一通り見回して、佐祐理は不安げな祐一の気分をを一新させるような明るい

 笑みで答えた。

「そ、そうですか?」

 その屈託のない笑顔に、祐一は思わず照れてしまう。

「こっちの方が一段落したら、プレゼントを買いに行くので、もう少し待ってて下さいね

 〜♪」

 佐祐理はそう言うとすぐにキッチンへ戻っていった。

「う〜ん……やっぱりもうちょっと泡立てた方がいいですね〜……」

 佐祐理は、テーブルに置かれた大きなボウルを見て、そう呟いた。

 ボウルの中には、『メレンゲ』(ケーキのスポンジの素のようなもの)が出来かけていた。

「もうひと頑張りですねっ」

 佐祐理は楽しそうに作業を再開する。

 左手と胴体を駆使してボウルを押さえ、右手に持った泡立て器で、メレンゲを掻き混ぜる。

 しばらく掻き回して、泡の立ち具合が丁度良くなった頃、祐一がキッチンに顔を出した。

「佐祐理さん、こっちは終わりましたけど何か手伝う事ありますか?」

「う〜ん……、それではオーブンを温めておいてもらえますか?」

「あ、はい」

 祐一は、言われたとおり、オーブンのスイッチを入れる。

 佐祐理は、オーブンが温まる間に、先のメレンゲを型に流し込んだ。

 そして、オーブンが温まったのを確認すると、その型ごとオーブンにメレンゲを入れて、

 タイマーを回す。

 後は、焼き上がるのを待って、デコレーションすればいいだけである。

「あはは〜、これで一段落ですね〜」

「そうですね。 じゃあ、今のうちにプレゼント買ってきちゃいましょうか」

「はい♪」



【注!火事の危険性があるので、皆さんは真似しないように!】



「うわっ、これはまたなんとも……」

「ふえ? どうかしましたか、祐一さん?」

 何故か怯えているような様子の祐一に佐祐理が問い掛ける。

「い、いえ、何でもないです……」

「そうですか……じゃあ、どれにしましょうか♪」

「は、はは……ははは……」

 楽しそうにぬいぐるみの並ぶ列を見て廻る佐祐理。

 対する祐一は、佐祐理の後ろを目立たないようについていく。

 そう、ここは商店街の一角にあるファンシーショップ。

 いわゆる女の子向けのお店なのである。

 当然、男は祐一の他には居ない訳で、祐一にとっては物凄く居こごちの良くない(?)場所

 なのである。

「あ、これなんかどうですかぁ?」

「へ?」

 突然、佐祐理から目の前に『何か』を出される。

 なんだろうかと思ってよく見てみると……

「へぇ、雪うさぎのぬいぐるみか……」

 そう、佐祐理が選んだのは、両手に乗るくらいの大きさの、可愛らしい雪うさぎのぬいぐ

 るみだった。

「すごく可愛くて、舞にぴったりだと思いませんか?」

「そうですね、いいんじゃないですか?」

 正直なところ、早くこの店から抜け出したかった祐一に、反論する気は毛頭なく、プレゼ

 ントは、あっさりとそれに決まった……

「あははーっ、じゃあ、佐祐理はこれにしますね〜っ♪」

 かのように思えた。

「祐一さんはどれにするか、決まりましたか?」

「はい……って、えぇっ!?」

「だから、祐一さんはプレゼントどれにするか決まったんですか?」

 佐祐理がいつもの屈託のない笑みで聞いてくる。

(俺にここでプレゼントを買えと仰るんですか? 佐祐理さん……)

「あ、いや……まだ決めてないんで、佐祐理さん、先にレジ済ませておいて貰えますか?」

 祐一は、佐祐理の笑顔の前に敗北した。

「はい、じゃあ先に済ませてきちゃいますね♪」

 佐祐理はそう言うと、すぐにレジの方へと駆けていった。

「くっ、佐祐理さん……あの笑顔は反則ですよ……」

 祐一は人知れず溜め息を吐くと、覚悟を決めて、ぬいぐるみの列に向き直った。

 商品棚には、大小様々のぬいぐるみが並べられている。

「……これだけ沢山の中から、どうやって選べばいいんだ?」

 祐一は性別上、『オトコ』に分別される。

 その為(?)こういったショップで、どういった物をえらべばいいのかが判らない。

 それならば、佐祐理を頼ればいい問題なのだが……。

「舞へのプレゼントだもんな……俺は俺で決めなくちゃ駄目か……」

 そこは男としてのプライドというか、彼氏(?)としての意地というかが許さなかったよう

 だ。

「舞の好きなモノっていえば……牛丼」

 真っ先にそれが祐一の頭の中に浮かんだ。

「駄目だ駄目だ! なんでそんなものをわざわざ誕生日プレゼントにしなくちゃいけない

 んだぁっ!!」

 だが、祐一は即座にその考えを抹消する。

「後は……うさぎとか、動物関係か……でも、それだと佐祐理さんの二番煎じになっちま

 うしなぁ……」

 考えれば考えるほど、何をプレゼントしていいのか判らなくなってくる。

 そうして祐一が悩んでいると、

「祐一さん、決まりましたか?」

 と、佐祐理がレジでの会計を終えて戻ってきた。

 その手には、綺麗にリボンと小さなくまの絵が入っている紙でラッピングされた箱があっ

 た。

「!! 佐祐理さん、それ……」

「あ、これですかぁ? プレゼント用にラッピングしてもらったんですよ〜♪」

「それだっ!!」

「ふえっ!?」

 祐一は思わず叫んでいた。




 2人が家に帰り着くと、丁度良くケーキが焼きあがっていた。

「あははーっ、後はデコレーションするだけですね♪」

「手伝いましょうか?」

「あ、お願いします」

 …………。

 …………。

 佐祐理と祐一が一緒にケーキのデコレーションをし始めて、十数分経った頃、突然佐祐理

 携帯電話が鳴った。

「はいもしもし。 ……あ、舞? うん、うん……あははーっ、待ってますね♪」

「佐祐理さん、舞、何て?」

 あらかた作業を終えた祐一が、片付けをしながら佐祐理に聞いた。

「あ、舞、後20分ぐらいで帰ってくるそうです」

「そっか、なら丁度いいですね」

「はい♪ 早く片付け終わらせて、舞をビックリさせちゃいましょう♪」

「はい」




 そして……

 ガチャ

「ただい……」

 パンパン!! パパ―ン!!!

 舞がドアを開けると同時に、無数のクラッカーが鳴った。

「……? 佐祐理、それに祐一……」

 これは何、と舞は言葉を続けようとしたが、それは2人のこの台詞に阻まれた。

『舞、誕生日おめでとう!!』

「え……?」

 舞は驚いて部屋の中を見回す。

 いつもと違って、綺麗に装飾されたリビング。

 それに、テーブルに置かれた、恐らく佐祐理の手作りであろう、バースデーケーキ。

 舞は、今日が自分の誕生日だという事をすっかり失念していた。

「これ、2人が……?」

「そうですよっ♪さぁ、早く早くっ」

 佐祐理が舞を急かすように中に招き入れる。

 舞は、半分佐祐理に引っ張られるようにしてリビングへと入った。

「はい、舞。 これは私からの誕生日プレゼントです♪」

 佐祐理が先程の可愛くラッピングされた箱を差し出す。

「……開けていいの?」

「勿論ですよっ。 だってこれは舞にあげたんですから」

 舞はそれを聞くと、ゆっくりとラッピングされた紙を剥がしていく。

 中から出てきた箱をあけると、そこには可愛い雪うさぎのぬいぐるみがあった。

「雪うさぎさん……」

 舞は食い入るようにぬいぐるみを見つめる。

「あははー、気に入って貰えましたか?」

 佐祐理の問いかけに、舞はゆっくりと頷いた。

「良かったです〜。 次は、祐一さんからのプレゼントですよ♪」

 どうぞ、と佐祐理が祐一と入れ替わる。

 祐一は、コホンと咳払いをすると、

「舞、ちょっと後ろ向いててくれるか?」

 と言って、舞を後ろに振り向かせた。

「……?」

 舞はしばらくじっとしていたが、突然、髪に違和感を感じた。

 祐一が、舞お気に入りの青いリボンを外したのだ。

「祐一……?」

「舞、誕生日おめでとう」

 祐一は優しく言うと、舞の髪に、真新しい赤いリボンを巻いていった。

「これが俺の誕生日プレゼントだ」

「祐一……」

 舞は祐一がリボンを結び終えるのを待って、振り返る。

「あははーっ、祐一さんカッコいいですっ♪」

「2人とも……ありがとう」

 舞は顔を赤くして俯きながらそう言った。

「本当に、ありがとう……」

 2人は、それを見て笑顔で顔を見合わせた。 そして、もう一度……



『ハッピーバースデー、舞!』



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