「こっちくるなバカ!あっちいけ!」
 「ちょ、ちょっと鈴!?」
 「ふかーっ!」

 力の限り威嚇して理樹を遠くへと追いやる。
 そうすることであたしは少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。

 「うぅ……」

 体があつい。
 顔がほてってる。
 最近のあたしは、なんか、ヘンだ。










 恋のしょほうせん
  Written by しま









 「……一体なんなんだ」

 昼休み。
 理樹から逃げるようにして教室を出たあたしは、くちゃくちゃに込み合っている購買でパンを買って外に出た。
 最近はいつもこうだ。
 理樹を見てると、ぽわぽわして落ち着かない。
 ただ見てるだけでそうなのに、目が合っちゃったりなんかしたらもう大変だ。
 それはもうくちゃくちゃなぐらい大変だ。
 胸の辺りがなんか痛いわかゆいわヘンな気分になるわでどうすればいいのか解らなくなる。
 あたしは病気にでもなってしまったんだろうか。


 「う〜ん、それはねぇ、病気だけど病気じゃないんだよ」

 こまりちゃんはこまったように笑いながらそう言っていた。
 どういう意味なのか全然解らない。


 「ふむ、残念ながらおねーさんからはその答えは教えてやれないな」

 くるがやは何やら面白いおもちゃでも見つけたような顔だった。
 何だかいやな予感がするからしばらく近づくのはよそう。


 「り、鈴ちゃんも大人への階段を上ってるってことですヨ?」

 はるかはなんか慌てたような表情をしていた。
 相変わらずよくわからないやつだ。


 「鈴さん、それは……いえ、やめておきましょう。自分で気付かなくては意味が無いでしょうし」

 みおは何か言いかけたけど結局教えてくれなかった。
 一体何を言おうとしたんだろう。


 「す、すーぱーらいばるおぶ・ざ・ひあ、なのですーっ!」

 クドは何だか驚いた子犬のように部屋の中を飛び跳ねていた。
 餌あげたらどうなるかな……?



 いろんなやつに聞いてみたけど、結局誰も教えてくれない。
 多分、みんな今のあたしの感覚の正体を知っている。
 でも、教えてくれない。
 なんでなんだろう。

 ……他に聞ける奴は誰が居ただろうか。




 「はっはっはっはっは!」
 「笑うな、バカ!」

 恭介はあたしの話を聞くと豪快に笑い出した。
 すごくムカついたのでとりあえず一発蹴っ飛ばす。

 「何がおかしいんだ!」
 「いや、お前がこういう事で悩むようになったんだなと思ってな」
 「それはなんだ、バカにしてるのか!」
 「そうじゃねぇよ。俺は嬉しいんだ」
 「嬉しい?」
 「あぁ」

 なんか知らんが恭介はほんとに楽しそうに笑ってる。
 一体なんだっていうんだ。

 「鈴。小毬は好きか?」
 「うん、こまりちゃんは好きだな」
 「ならクドは好きか?」
 「クドも好きだ。犬っぽいけど」
 「来ヶ谷は」
 「嫌いじゃない」
 「西園」
 「好きだぞ」
 「三枝」
 「うるさいやつだ」
 「酷い言い草だな……じゃあ真人」
 「ばかだな」
 「もっと酷かったか……」

 あ、なんか頭を抱えてる。

 「じゃあ理樹」
 「!?」
 「?どうした?理樹のことはどう思ってるんだ?」
 「それは、その……」

 あれ、えっと、あれ?
 うまく言葉が出てこない。 

 「理樹のことは……好きだ」
 「なんか歯切れが悪いな。実は嫌いなのか?」
 「違う!そんなことない!」

 力一杯否定する。

 「じゃあなんでそんな慌ててるんだ」
 「う、うっさい!そんなんしるか!!ただちょっと理樹と目が合うと喋れなくなるだけだ!」

 あ、あたしは慌ててなんかないぞ!ほんとだぞ!

 「くくく……」

 あたしの様子がそんなに面白いのか、恭介は腹を抑えて必死に笑いをこらえている。

 「よし解った」
 「なに?」

 唐突に恭介は真面目な顔になる。

 「鈴、お前は今とても重い病気なんだ」
 「Σ(∵)」
 「声を顔文字化するなよ……で、だ。本来その病気はほうっておくと大変なことになる」
 「大変なことだと!」
 「そうだ。とても大変なことだ」

 恭介はすごく真面目な表情だ。
 これは嘘をついている感じじゃない。
 思わず唾を飲む。

 「だが安心しろ鈴。俺はこの病気の特効薬を持っている」
 「ほんとか!」
 「そいつを使えば今の鈴の病気なんてへっちゃらへーだ」
 「それはすごいな!で、何処にあるんだ、それは!?」
 「それはな……」

 恭介はツカツカと自分のベッドまで歩いてく。

 「……コイツだ!!」

 そしてベッドに載せられていた毛布を勢いよくひっぱがした。

 「きょ、恭介!!」
 「な、なあああああああ!?」

 そこに居たのは………理樹だった。

 「いいか鈴。今お前に必要なのは理樹だ。少しばかり時間をくれてやるからちょっと理樹と話をしてみろ」

 恭介は固まっているあたしの脇を通り過ぎると、そのまま部屋を出て行った。
 ドアが閉まる音がしてようやく我に返ったあたしは、急いで部屋を出ようとする。

 「あ、待って、鈴!」
 「!!」

 走り出そうとしたあたしの腕を、理樹が掴んでいた。

 「り、理樹……」

 掴まれた手が、とても、熱い。

 「鈴、あのね、僕は――」



















 「全く、手間かけさせやがる」

 若い2人に部屋を明け渡してからと言うもの、俺は何処に行くあても無く、気がつけば中庭に来ていた。

 「おぅ、恭介じゃねぇか」
 「真人か」

 そこに丁度よく真人が現れた。

 「こんな時間に外に居るなんて珍しいな」
 「ちょっと若い奴らに部屋を奪われてな。今は鈴の治療中だ」
 「何!?どっか怪我したのか?」

 真人は驚いているようだ。
 だが、別に怪我なんかじゃない。

 「いや、どっちかと言えば心、だな」
 「はぁ?」
 「それにおれ自身が治療をしてる訳じゃない」
 「じゃあ誰がやってんだよ」
 「理樹だ」

 そう、鈴の相手をするのは理樹だ。
 俺でも健吾でも真人でもない。
 鈴が選び、鈴を選んだのは理樹だ。

 「じゃあ理樹が治療をしてるわけか」
 「半分はずれだな。なにせ――」

























 「恋の病なんて、当の本人にしかどうしようもないんだからな」




≪あとがき≫ この作品には背の大きさ、双子属性、つるぺた属性などは一切関係ありません。 もちろんビジュアルアーツ的な意味で。 拍手ボタンです。何か思うところありましたらポチっとどうぞ。 もどる