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「笹瀬川さん笹瀬川さん」
『な、何ですのいきなり? あなたから電話してくるなんて珍しいですわね』
「うん。ほら、明日って休みでしょ?」
『それは……土曜日ですし、部活も一応ありませんわね』
「それならさ、明日どこかに行かない? ほら、天気もいいみたいだし最近どこにもいっていなかったから……」
『それはデートのお誘いですの?』
「まあ、そういうことになるのかな?」
『いいですわよ。丁度予定もないことですし』
『あれ、さーちゃん明日は部活で使う道具のメンテナンスをするっていっ――!?』
『な、何でもありませんわよ! それで、明日はどこで待ち合わせればいいんですの?』
「う、うん。そうだね……校門に十時でいいかな?」
『……そこだと誰かに見られませんこと?』
「え、駄目かな?」
『駄目というわけではありませんけど……はっ、恥ずかしくありませんの?』
「何が?」
『「何が」って、わたくしとあなたが、その、付き合ってるって知られてしまうことがに決まってますわ!』
「あんまり恥ずかしいとは思わないかな。だって、笹瀬川さんが彼女なんだし」
『〜〜っ!! わ、わたくしも……
「ごめん、何か言った?」
『なんでもありませんわっ。おやすみなさいませ!』
「? おやすみ」



 昨日の夜のそんな会話があってから妙にそわそわして眠るのが遅くなったせいか、ここに来る予定だった時間より少しだけ(ほんの少しだけ)遅れてしまった。それでも、多分約束の時間には間に合っていると思う。
 丁度そこに彼女の姿を認めて、安堵の吐息が出た。
「ちょっと遅いですわよ?」
 そう言われ慌てて携帯電話の時計を見てみると、まだ九時五十三分。
「……一応約束した時間はまだきていないみたいだけど?」
「殿方は早く来てレディーを安心させるものですわ」
 ここでお約束に「レディー?」とボケる気はない。言って反応をみてみたい気もするけど、久々のデートで彼女の機嫌をむざむざ損なう必要はないよね。
「ごめん、今度からは気をつけるよ。……ちなみに何分に来たの?」
「あなたが来る二十分前には着いていましてよ」
「うん、無理そう。というか、早すぎじゃない?」
「普通ですわ。あなたが遅いだけなのではなくて」
「えぇー」
 最近は約束時間の二十分前に来るのは普通なのだろうか? ちょっとだけ、待ち合わせ時間についての見解をディベートしたいかも。
 でもそんなことをいつまでも考えていると折角の今日という日が面白くなくなってしまいそうだったから、僕は彼女の手を引く。
「時間も勿体ないしさ、行こ?」
「そうですわね、行きましょう」
 最初はされるがままに繋がれていた笹瀬川さんの手は、僕の手をぎゅっと包んで離さない。そんな何気ない行為が、彼女の僕に対する気持ちを表してくれているようでとても嬉しかった。
 ……今度は二十分前に来なければいけないのだろうか?



 そうやって暫く歩いいていたはいいけど……
「笹瀬川さん、どこか生きたい所とかある?」
「……決まってませんでしたの?」
「恥ずかしながら……」
 昨日はデートできる嬉しさで一杯で考える余裕がなかった、なんて絶対に言えない。
「はあ……でしたら、わたくしの買い物に付き合ってくださらない?」
「分かったよ。ちなみに何買うの?」
「部活道具のメンテナンス用品ですわ」
 そういえば昨日の電話でもメンテナンスがどうこうと――同室の小毬さんが――言っていた気がする。それのことだろうか?
「その後どこかに食べに行く?」
「そうですわね」
 …………
 うわ、会話が途切れちゃった。どうしよう……。
 何か面白い話題はないかと脳内を検索してみるけれど、結局は見つからなくて徒労に終わってしまう。よく考えてみれば、僕は彼女のことをあまり多くは知らないのかも知れない。
 笹瀬川さんがちょっと高飛車だけど、本当は凄く優しく面倒見もよくて凄く可愛い人であることは知っている。だけど彼女の好きなものとか苦手なもの、趣味や特技なんて殆ど知らないんじゃないかな?
 こんなこと、初デートの時は緊張で考える暇すらなかった。今はまだ少し余裕が出てきたけど、こんなにそれらしいデートは多分二回目だし。これなら彼女にいつも付いているソフトボール部後輩の方がよっぽど僕より彼女を理解しているのかも。
 そう思うとちょっと情けなくなて鬱になりそうだけど、うん、これからもっと彼女のことを知っていけば良いんだろう。
「笹瀬川さん」
「なんですの?」
「趣味は何?」
「……どうして今その質問なのか、訊いてもよろしいかしら?」
「いや……ほら、僕ってあまり笹瀬川さんのこと知らないから……」
「知らないも何も、あの世界で何日も一緒に過ごしていたでしょう?」
「いやそうじゃなくてさ、例えば趣味とか休みの過ごし方とか、そういったこと。あのときの状況ってほら、かなり特殊だったわけだし」
「趣味はソフトボール。休みの日も大抵部活ですわね」
「うん……って、それだけ?」
「『それだけ?』って、あなたはそういったことに執着しすぎですわ」
「そうかなぁ?」
「そうですわ。そういったことは‥‥付き合っている内に自ずと知ることになると思いますけど?」
 こっちに向き直って口元に薄っすらと微笑を浮かべつつ、彼女はそう言った。
 そんな彼女があまりにも可愛く思えて、一瞬ここが公共の歩道であることを忘れて抱きつきそうになった。すんでのところで止めたけど、もしそんなことをしていたら今頃僕はかなり痛い目にあってるんだろうなと思うと、ちょっとだけぞっとしない。
「こら、行きすぎですわよ」
 うっかり行き過ぎてしまいそうになった僕を一言たしなめながら、笹瀬川さんはそのスポーツショップに入った。僕も彼女に先導される形で――手を繋いでいるのだから当たり前だけど――ショップに入る。
 意外と奥行きがあるらしく、ともすれば迷いそうになるほどの規模だ。こんなショップがあるなんて、今まで気が付かなかった……後で真人にでも教えてあげよう。
 笹瀬川さん(と僕)はさっさと店の奥に進んでいって、棚から躊躇なくハンドクリームのようなもの――後で訊いたらグローブのメンテナンス用品らしい――を二つ買い物籠に入れていた。
「ちょっと貸して?」
「えっ? ちょ、ちょっと……!?」
「いや折角のデートなんだしさ、出すよ」
「いえ、これは部活で使う物ですし……」
「だって笹瀬川さんの趣味でもあるんでしょ? なら別に彼氏の僕が出しても良いと思うよ」
「うっ、確かにそうですけど――公然と、か、彼氏と言うのは恥ずかしくなくて?
「? よく聞き取れなかったんだけど、どうしたのさ」
「な、何でもありませんわ!」
「よく分からないけど、なら買ってくるよ」
 僕はそう言い残してレジに向かった。都合良くレジに他の人は並んでいなかったからすぐに買うことができた。
 彼女にこれくらいの甲斐性を見せたって、罰は当たらないと思う。いつも呆れさせてばかりだし、たまにはね。

 店を出ると既に陽は僕たちの頭上真上に昇っていた。
 ちょっと反射で見にくいけど、携帯の時計を見てみると十二時半だった。どこでそんなに時間を取ったのだろう?
 ふと裾が引かれた。振り向くと、笹瀬川さんは少し照れたような優しい笑顔をその綺麗な顔に映していた。
「嬉しかったですわ、凄く」
 それを聞いてショップの袋を見せられ破顔しそうになったけれど、すぐに「でも、」と続けられる。
「わたくしの前なのですから、見栄は張らなくてもいいですわよ」
「いや、別に見栄ってわけじゃないんだけど……」
「そうでなくても、わたくしはあなたに気兼ねしてほしくないんですの」
「‥‥うん、わかった。じゃあさ、その代わりにって言うと変なんだけど、」
 今度は訝しむようなジト眼で見られた。気付かれないように、少しだけ深呼吸。周りに人が少ないことを確認する。
「ちゃんと名前で呼んでくれないかな?」
「……そういえば呼んだことがありませんでしたわね」
 確か、フルネームか代名詞でしか呼ばれたことがなかったと思う。
「ではその前に、あ、あなたがわたくしを名前で呼んでくださらない?」
「えっ?」
 まさか笹瀬川さんの方からそんなことをお願いされるとは思っていなかったから、ちょっと……というか結構動揺してしまった。
 それはファーストネームで読んで欲しいっていうことでいいんだろうか? それとも単に苗字を呼び捨てで呼んで欲しいとか……?
「ちょ、ちょっと、そこで黙らないで下さる!?」
「え、うん…………佐々美さん」
……それでもさん付けなんですのね……はぁ
「……どうしたの?」
「な、何でもありませんわ!」
「じゃあさ、僕の名前も呼んでくれないかな?」
「わかってますわよ……り、りりりりりき」
 凄く、噛みまくっていた。
「もう一回言ってくれないかな?」
「り、りりりりりりき」
「じょ、徐々に慣れてくれればいいと思うよ」
「……そうですわね」
 そうちょっとだけ残念そうに言って、でも僕に優しい笑みを向けてくれた。
「では、行きましょう」
 やっぱり笹せ――佐々美さんにはこういった優しい笑顔が似合うなと思いつつ、彼女に並んで歩を進める。
「り理樹、理樹、理樹――……」
 僕の名前を小さく反復する彼女を見て、なんだか所構わず惚気たいような気分になった。僕も彼女も恥ずかしいから、そんなことは勿論しないわけだけれども。
 その代わり、僕は彼女の手を一層強く握った。
 彼女も、強く握り返してくれた。



 昼食を食べ終わり――因みに昼食はファミレスで食べたのだけど、割り勘することになった――僕たちは本屋に来ていた。というのも、シャーペンの替え芯がなくなったのと、ノートの予備が欲しくなったという理由からだった。
 僕がこの案を佐々美さんに持ちかけた時、彼女はちょっとだけ呆れたような顔で同意してくれた。「僕は佐々美さんと一緒ならどこでもいいんだけどね」とくさい台詞を、赤面を我慢しつつ言ってみると案の定頬を抓まんでぐりぐりされた。地味に痛かったし、今も微妙に疼くけど、その後赤面しながら僕の手を引いて先を歩くという可愛い彼女が見れたから良いかなとも思う。
「あっ、これだ」
 そう言って僕は四冊一パックのリングノートと、いつも使っているシャーペンの替え芯を手に取った。
「それならわたくしもついでに」
 佐々美さんはそう言って一本のシャープペンシルを手に取った。
「あ、それ僕のと一緒だ。色も」
「……では他のペンに……」
「えぇー」
 そんなじゃれ合いみたいなやりとりがとても楽しい。
 彼女の方も、そう言いつつそのペンを戻そうとしない。猫っぽい柄の財布から五百円玉を取り出して、ペンと一緒に渡してきた。
「レジも混んでいるみたいですし、一緒に買ってきてくださらない?」
「うん、いいよ」
「わたくしはあっちの雑誌コーナーのところにいますわ」
「わかった。じゃあ買ってくるよ」
 僕は一時彼女と別れて、レジに向かった。
 レジは確かに混んでたけど、げんなりするほどの人でもなかった。この後の予定でも考えながら、ゆっくり待つことにしよう。


 佐々美は理樹の後姿を暫し目で追った後、その踵を返して一人雑誌コーナーへと歩を進めた。
 ……一緒に行ってあげればよかったかしら? 彼女はそう思い僅か後悔したが、その眼に目的の雑誌を認めて立ち止まった。ソフトボールの月刊雑誌である。
 彼女はそれを手に取り、ぱらぱらとページを捲る。有名なプロ選手や、大会で目にしたこともあるトップレベルのアマチュア選手達の顔が、プレイしている姿が、鮮明に写真へと収められていた。
 それらを何ともなしに眺めていても、その思考は別のところにいっていた。それはやはりというべきか、理樹のことである。
 それに彼女自身気付き、短い溜息を吐いた。
(何だかんだ言っても、私も理樹に首っ丈だったということですわね……)
 そんなことを思い、そして次の瞬間には先程自分で思ったことに赤面していた。
 スポーツ雑誌を見ながら赤面する美少女というのも、かなり奇妙滑稽な絵である。
 そんな光景を大衆が訝しがらないはずがなく、誰から見てもその光景はとても理解し難いものだった。
 気を紛らわすために外方向いた彼女は、不意に、とある雑誌を目にして更に顔を赤くすることとなった。
 そう、成人誌である。
 そのトップを飾っているグラビアアイドルの、主に胸部。そこに彼女の視線は注がれていた。
(やはり殿方は……)
 そのグラビアアイドルの胸の大きさは、彼女たちの業界では極々一般的なサイズである。しかし、それは彼女に劣等感を与えるには十分すぎた。
 彼女はその雑誌を見、そして自分の胸を見、と交互に繰り返していた。周りの目など今は眼中にないとでも言うかのように、その行為に真剣になっていた。
「はぁ…………」


 ノートやペンなどが入った紙袋を持って、早足に佐々美さんの待っているところまで向かう。
 レジの進行が遅くて、思ったよりも時間を食ってしまった。あまり待たせるのも悪いし、早く彼女の元へ行きたかった。
 そして彼女のすぐ近くに来た時、その大きな溜息を聞いた。どうしたんだろう。僕の帰って来るのが遅かったから呆れているのかな?
「どうしたの?」
「ひゃぁっ!?」
 あ、凄く可愛い声聞いた。
「あ、あなたでしたの……脅かさないでくださいますこと!?」
「いや、別に脅かしたつもりはないんだけどさ」
「あなたにその気がなくてもわたくしが驚きましたの!」
「えぇー!?」
 いや、胸を押さえて息を荒くしているんだから、実際かなり驚いたんだろうけど。
「もう終わりましたの?」
「うん、ごめんね待たせちゃって」
「いいですわよ。行きましょう?」
 そう言って佐々美さんはそそくさと僕の手を取り、店内を後にした。
 その時の彼女の顔に、翳りが見えたのは気のせいなのかな……?



 外は、ぱらぱらと小雨が降っていた。
 そんな中を、傘もない僕ら二人は全力で帰路を走っていた。そうしなくちゃ、これからもどんどん雨は酷くなりそうだったから。
 その間、彼女に話しかけても生返事が返ってくるだけだったし、情けないことに僕が何度か置いていかれそうになったこともあった。それほど、彼女は何かを考え込んでいるようだった。
 そしてやっとのことで着いた寮の前、女子寮と男子寮の境。
「じゃあ、明日また」
「ええ」
「……どうしたの? 考え事?」
「――り‥‥理樹!」
「なに?」
「あの――や、やっぱり何でもありませんわ……」
「そう。……でも、相談したいことがあったら言ってよね。僕はさ、彼氏なんだから」
「――っ!! そうですわね、そうしますわ」
「うん」
 また明日、ともう一度挨拶してから踵を返し歩き出した。結局僕に相談してくれなかったの少し残念だけど、それでも彼女には彼女の事情があるんだろう。
 明日また、佐々美さんの可愛い笑顔が見れるといいなと思ったりした。

(相談なんて、それができたら苦労しませんわよ……はぁ……)

 結局、終始佐々美さんの表情は固いままだった。
 僕もそんな彼女のことを気にしすぎてか、夕食の時だって
「おい理樹……そりゃかけすぎじゃねぇか?」
 と真人に言われてしまうほどだ。謙吾にも「真人に注意されるなんて、本当にどうかしたのか?」と心配された。その後、僕は醤油の過度にかかったコロッケを必死になって食べたわけだけど。
 寝る前の軽い運動だ、と真人が隣で腹筋背筋腕立てを三十回四セットしている間にも、ただぼうっと二段ベッドの天井を見ながら上の空だった。
 流石に心配しすぎかなとは思ったけど、彼女が僕に隠し事をすることはそれほど珍しいことだった。あの日(こことは異なった世界の、壊れる寸前)、彼女は僕だけをこの世界に帰そうとした。結局、僕はそれが嫌で彼女の元に戻ったのだけど。
 それ以来、彼女には極力隠し事をしないようにしてもらっていた。勿論お互いのプライバシーもあるし、僕も極力詮索はしないようにしていたんだけど……
(あんな顔を見せられたら、訊かずにはいられないよ……)
 と、そんなことを考えているうちに、もう寝る時間だった。
「真人、それくらいにして寝ようよ。明日の筋肉に差し支えるよ?」
「うっし、ならこれぐらいにしとっか!」
 とにかく『筋肉』という単語を出せばどうにかなるあたり鈴に馬鹿といわれる理由みたいだけど、これこそが真人たる所以なんだろう。
 タオルで軽く汗をふき取ったらそれをそのまま投げて――後で回収するの僕なんだけど……――真人はさっさと布団に入ってしまった。電気ぐらい消そうよ。
「よいしょ、っと」
 僕は電気を消して再度布団に入った。上から、というより正面からは、既に真人のいびきが聞こえてきた。
 携帯電話で明日起きる時刻のアラームを設定しながら、また今日の佐々美さんが思い出される。とほぼ同時に――
――ブブブブブブブ
 マナーモードにしておいた携帯のバイブレーションがなった。吃驚して声を上げそうになったけど、何とか抑えた。
 メールかと思って画面を見てみると『calling』の文字。時計は十時をちょっとすぎた頃を示している。
 発信者は佐々美さん。彼女から電話を掛けてくるなんてことは滅多にもないので、ちょっと訝しみながらも通話ボタンを押す。
『り、理樹?』
「どうしたの?」
 上で真人も寝ていることだし、ちょっと声のボリュームを押さえて話す。もっとも、僕が普通に話していたくらいで起きることもないけど。
『ちょ、ちょっと訊きたいことがありますの……』
「なに、訊きたいことって?」
『それは、その……』
 彼女はそこで言い淀んでしまった。何かに躊躇しているように、らしくない間投詞を並べている。
「言いたいのなら、言ってくれなきゃ。僕は佐々美さんの彼氏だし、できる限りのことはしてあげるから」
『……あ、あなたも――
 ――女性の胸は大きい方がいいんですのっ!?』
 コントみたくコケそうになった。いや、実際は布団の中で横になっているから転びようもないのだけど。
「そ、そんなことないけど……なんでいきなり?」
『‥‥と、殿方は皆大きい方が好きと書いてありましたの!』
「ちょっと落ち着いてっ、そんなに大声出さなくても聞こえてるから」
 一体彼女はどんな本を読んだんだろうか、気になったけど今は自重する。それよりも……
「僕が好きな人って誰だか分かる?」
『……わたくしではありませんの?』
「そう、佐々美さんだよ。誰が何を言っても、それだけは変わらないから」
『……わたくしも、ですわよ』
「うん。……僕は胸の大きさで人を好きになるんじゃなくて、佐々美さんの胸だから好きなんだ」
『あなたそれ、言っていて恥ずかしくはありませんの』
 実はかなり恥ずかしくて、真人が寝ていなければ頭を抱えて床を転がりたいくらいだけど、応えない。せめてものこれが僕のせめてもの強がりであることも、多分見透かされていると思う。
 暫く「無言の肯定」の時間が過ぎて、彼女は小さく溜息を吐いた。
『はぁ……あなたって人は、本当に――』
 何と言ったのかは、聞き取れなかった。「え?」と訊き返そうとして、止めた。
 赤くなって携帯電話を握っている佐々美さんを脳裏に思い描いて、ちょっとだけ吹き出してしまう。
『何ですの、いきなり?』
「ん、何でもない」
『ちっとも思いませんの? その、胸が大きい方がいいとか……』
 まだ気になっているのだろうか?
「全然。真人とか謙吾とか恭介とかならそんな拘りがあるかも知れないけど、僕はそういったことに疎かったしあんまり興味もなかったからさ」
『……今でも、興味はありませんの……?』
「まぁ、佐々美さんの以外は、ね」
『――……もう時間も時間ですし、切りますわよ?』
「うん、お休み」
『おやすみなさいませ』
――プーップーップーッ
 ……電話越しだからって、かなり恥ずかしいことを言ったかも。
 顔も火照っちゃってるし……一回洗面所で軽く顔を洗ってから寝よう、うん。




――プーップーップーッ
 電話が切れたらすぐに彼女はそれを置き、布団へ赤くなった顔を隠すかのように潜り込んだ。
 先の彼氏との対話で、彼女の不安はほぼ解けて消えたのだが、変わりにその言葉を受けてこれ異常ないくらい赤面していたのだ。
(どうして理樹はあんな恥ずかしいことを、そう何度も言えますの!)
 電話での会話で『好き』と言われた回数を指折り数えてみたり、その度に思い出して顔を赤くする繰り返し。
 暫くしてやっと落ち着いてくると、先の行動を思い出し少々いつもの自分像とのギャップに頭を抱えた。
 そして今日の疲労や心労が一気に眠気として襲い掛かってくる。
 良く眠れそうだと朧げな意識の中に思いながら、彼女は瞳をと閉じた。



 

 翌日、食堂には朝から鉢合わせして喧嘩を始める、元気な鈴と彼女の姿があった。









-----後書-----
 という名の言い訳(笑)。
 まずすみませんでした、楽しんで読んでいただければこれ幸いなのですが、結構グダグダのオチ無しになってしまったのではないかと思います。佐々美は好きなんですが、色々と私事がありゲームを再プレイすることなく書き上げてしまったのでキャラの崩壊があるかも知れません。まさか自分でもこれほど佐々美が苦手とは思わずに、見切り発車で書いたのでその結果がこれです。ストーリーのテンポもバラバラですし……。そして何気なく小生初の、HTMLをSS内に入れるという試みw
 今回は10KB程度に押させようと頑張ったら大幅にオーバーしてしまいました。遅くなりましたが、テーマは『一日』です。サブテーマーは『ピロートーク』です。
「ピロートークには夢がある」的なことを誰かが仰っていたので、それらしきことをさせてみました(電話越しですが)。そこに後悔はありません。あるのは浪漫でs(ry
 というわけで、お目汚し失礼いたしました。前述いたしましたように、楽しんでいただければ非常に嬉しく思います。
 主催者のしまさん、舞台の中央にお立ちの参加SS作家さん方、そして読者の方々に至上の感謝を後書の締めとさせていただきます。
 どうもありがとうございました。



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