実は僕、鈴のことが好きなんだ。
 その一言が事の発端だった。








──愛し、愛され。恋、焦がれ──








 彼の告白に対する周囲の反応は千差万別であった。
 うろたえる者。同意する者。驚きを隠せない者。喜ぶ者。何を今更と呆れる者。
 響くは声。様々な声。
 始まりは彼一人の意見でしかなかった声達は、やがて広がり波紋となる。
 応援してるぜ。
 鈴ちゃんは可愛いもんね。
 私も応援するのですっ。
 お姉さんを差し置いて彼女とは、まぁそれも善哉。
 共鳴していく周囲の声。いずれも好意的な奔流であった。


 棗鈴。
 無愛想だが愛らしく、クールなようでいて情に厚い。
 これぞ猫。だからキャット。 
 長くしなやかな髪。流水の様だなどとはおこがましい。其は美。美しきものなのだ。
 瞳。世界を映すその宝石は、覗きこんだ者を魅了して、見つめた相手を惑わせて。
 厳しき言霊を紡ぎ出す唇は、深い愛情の裏返しで。震わす空気すらも憂いを帯びて。
 隠されしうなじが湛えるは少女の芳気。知らず惹かれる魅惑の微香。
 彼女について語り出せば、それこそ終着点の存在しない果てなき羅列が生まれ続けるのだった。
 これは彼だけの意見ではない。彼ら、彼女らの総意なのだ。
 だからこそ。棗鈴に対する全員の本意はたったの一言で表わすことが出来るのだ。
 そう。
 鈴は愛されている。


 故に。彼の告白が引き金となるのも当然の事象で。
 彼らの一人が言い出した。俺だって好きだぜ。大好きなんだぜ? この気持ちはお前にだって負けねえさ。
 彼女らの一人が言い出した。私も鈴ちゃんは大好きなんだよー。鈴ちゃんは私のものー。
 釣られて誰かが口を挟む。そればっかりは聞き流せないのですヨ。鈴ちゃんはあたしのものだーっ!
 最年長の彼が堪らず答える。あいつと一番一緒にいたのは俺だ! 俺が鈴を一番上手に扱えるんだ!
 グラマラスな彼女がにやりと嗤う。鈴くんのあーんなところを舐めたことがあるのは私だけだと言うに。
 かつては堅実、今は馬鹿な男が叫ぶ。けしからん! 実にけしからんっ! 詳しく話せ!
 嗚呼。
 愛とはどこまでも醜く、自分本位で、独占的で、それでいて輝けるものなのだろう。
 鈴の姿。鈴の声。鈴の感情。鈴の全て。
 ひとつひとつが愛しくて、ひとつ残らず愛しくて。


 君よ。花よ。
 愛しき鈴よ。
 例え仲間を敵に回そうと、例えそれが君にとって不本意であるのだとしても。
 このまま君だけを奪い去りたい。太陽が凍りついても、僕と君だけは消えないで。
 それはまさしくLOVE TRAIN. 戻れない、このまま君を連れ去って。
 LOVE TRAIN. 諦めた、二人の愛をもう一度。
 貴女を大きく包む、永遠の愛。一人きりにはさせないわ。
 そんなに言うならお前は鈴に飛びつくことが出来るのかよ? いや、それは流石に……。
 もういいよ、俺がやるよ! そんな、私がするよ! ちょっと待てよ、だったら俺が……っ。
 どうぞどうぞ。


 結局。彼の呟いた純朴な想いは、目も当てられない闘争を生み出したのであった。
 俺が。私が。僕が。いや俺が。譲れないよ。こちらこそ。
 だからか。
 そのような状況だったからか。
 誰しもが気づけなかった。誰しもが不意を打たれたのだ。

「……こんなところに集まってなにしてるお前ら」

 渦中の少女が現われたことにも気づけなかったのは。
 刹那の間。
 最初に飛びだしたのは誰だったのか。
 愛しきあの人に触れようと。愛しき鈴へと想いを届けようと。
 ひとつの影が動いてからは早かった。
 追いつけ追い越せとばかりの連続突貫。集まっていた者達全員が鈴へと向かっていく。
 その光景は筆舌に難し。
 驚きを隠せなかった鈴にできたことは、疑問の念を口にすることのみであった。










「アインシュタイン! オードリー! ゲイツ! コバーン! ジャッキー! テヅカ! ホクサイ! ユウサク! ヒョードル! シューマッハ! ファーブル! アリストテレス! 重い、重いぞお前らっ!」











 にゃー。



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