※一応の注意書き
 このおはなしは割と初っ端から性的な要素が含まれています。
 十八歳未満、及びそういったものが苦手な方は急いで回れ右して他の健全な作品を読むべし、です。
 良識ある紳士の人はこの先へどうぞー。






























「理樹はずるい」
「……え?」

 先日と同じように、鈴の部屋で身体を重ねた後のことだ。
 背中の方から細っこい腰に手を回して鈴を抱きしめていた僕は、唐突なその言葉に間抜けな声を返してしまった。汗でほんのり湿った艶めかしい首筋に吐息が掛かり、目と鼻の先で可愛らしい悲鳴が上がる。

「い、いきなり首元でしゃべるなっ! びっくりするだろ!」
「無茶言わないでよ……。で、いったい僕の何がずるいの?」
「ついさっき、自分がしてたことを思い返してみろ」

 と言われても。
 キスをして、舌も入れて、ベッドに寝かせてゆっくり服を脱がせて、スポーツブラの上から胸を揉んで、中に手を滑り込ませて、耳たぶを甘噛みしながら乳首を重点的に攻めて。染みができるくらい濡れてきたところでパンツも下ろして、一回鈴が達するまで指で愛撫して――。

「……いつも通りじゃない?」
「それがあたしは不満なんだ」

 ぐぐっと体重を強く掛けてきた鈴は、お腹の前で組まれた僕の手指を一本一本丁寧に外して解いた。二人揃ってベッドに倒れる。押し付けられた背から伝わる、滑らかな肌の感触。丁度柔らかいお尻が股間の辺りに当たっていて、さっきまで萎えてたはずのモノが少しずつ元気を取り戻していくのがわかった。
 それに気付いたのか、軽く太腿をつねられる。地味に痛い。

「お前がどーしようもなくえっちなことについては、もうあきらめた」
「諦めたって……いや、まあ、否定はしないけど……」
「だからそれはいい。問題は、あたしがほとんど何もしてないってことだ」
「そう? 結構キスの時とか積極的だし、脱がすの手伝ってくれたりしてるし、充分じゃないのかな」
「ぜんぜんだめだ。足りない。というか、攻められてばっかりなのは納得いかない」

 不機嫌そうな声色でそう呟き、勢いをつけて鈴は起き上がった。一糸纏わぬ姿のまま衣装箪笥に向かい、新しい下着を取り出す。そして、何故か穿かずにすたすたと歩き始めた。
 視界を横切る鈴が足を止めたのは、洗面所の手前。

「だから、理樹。一緒に、お風呂に入ろう」

 ――そこには、小さな浴室がある。










 きみしかみえない










 男子寮と女子寮、アメニティが充実してるのはどっちかと訊かれたら、おそらく寮住まいの生徒は誰もが後者と答えるだろう。お風呂もトイレも共用の男子寮とは違い、女子寮には全ての部屋にその両方が設置されている。勿論寮の浴場と比べればこじんまりとしたものだけど、二人程度ならさして狭くは感じない。わざわざ離れの方に足を運ぶのが面倒だったり、何らかの事情で外に出られない、そういう時は重宝するらしく、自分でシャンプーやリンスを持ってきてる子も多いとか。

「随分詳しいんだね」
「こまりちゃんが教えてくれたんだ」

 既に裸なので服を脱ぐ必要はなかった。僕はトランクスを、鈴はさっき箪笥から出したばかりのパンツとブラジャーを洗濯カゴに置き、脱衣所の引き戸を閉める。外の鍵はちゃんと掛けてあるし、元々鈴の部屋に人が訪れることはほとんどないけれど、その辺は気持ちの問題だ。
 シャワーの水が温まるのを待つ間、頼み込んで鈴の髪留めを外させてもらった。根元を縛るゴムを抜き取り、左右に結われたすず付きのリボンを解く。髪を下ろした鈴はやけに大人っぽくて、ちょっと新鮮だった。

「ねえ、今度この髪型で出かけてみない?」
「んー……理樹はその方がいいのか?」
「たまには気分転換もいいんじゃないかな、とは思うよ」
「じゃあ、わかった。善処しよう」

 お互い相手の裸はもう見慣れてるものだから、タオルで身体を隠すこともしない。ただ、恥ずかしくないわけでもないので、申し訳程度に局部を手で隠しながら中に入った。
 既に熱を持ったシャワーの水は、薄い湯気を上げている。とりあえず鈴に先を譲り、僕は後ろで風呂椅子に座った。茶色がかった鈴の長い髪が背中にぺたりと貼りついていて、妙に艶かしい。ちょっぴり悪戯したい衝動に駆られたけど、さすがに節操無さ過ぎると思ってそれは自制した。

「交代だ」
「了解」

 充分に頭を濡らした鈴がこっちへと振り向き、短く告げる。
 立ち上がった僕の横でシャンプーのヘッドを二回ほど押し、開いたてのひらにどろっとした液体を乗せると、もう一つ置いてあった風呂椅子に腰を下ろして髪に撫で付け始めた。優しく梳くような手付きで、細い指がシャンプーを泡立てていく。
 一人部屋なのに椅子が二つあるのは、時折小毬さんが泊まるからだろう。仲良く洗いっこしてる姿を想像して、つい緩みそうになった頬を引き締める。幸いと言うべきか、俯いて真剣に頭を洗ってる鈴には見られずに済んだ。

「鈴、僕もこれ使っていいの?」
「あたしのしかないから問題ない。“ふろーらるのかおり”だぞ」

 わかって言ってるんだかどうなんだか。
 右手に落とした粘液からは、仄かに覚えのある甘やかな匂いがした。首筋に顔を埋めた時に感じる、鈴の匂い。
 この後のことを意識してしまい、下半身が少し疼く。昂りを誤魔化すように、僕は頭の上で立てた指を荒く動かした。泡が額を滑り落ちて、閉じた瞼に掛かる。
 視界が塞がっている分、シャワーのお湯が肌を叩く音に混じって、髪を梳く鈴の鼻歌が鮮明に聞こえた。こんなところもちゃんと女の子らしい。昔、男の子と勘違いしたのが嘘みたいな、僕の彼女。
 一足早く泡を洗い流し、滴る水が落ち着くのを待ってから、僕は鈴の隣に座った。

「手伝ってもいい?」
「乱暴にはするなよ。やさしくしろ」
「うん。勿論そのつもり」

 要望に従い、垂れ下がった一房をそっと持ち上げる。触り心地の良い髪に指を通すとすんなり抜けるので、枝毛はほとんどないようだった。普段とはまた違った手触りに夢中になって、しばらく無言で撫で擦る。

「なんだ、気に入ったのか?」
「そうかも。鈴の髪、綺麗だから。ずっとこうしてたいくらい」
「……恥ずかしいこと言うやつだな」
「自覚はある」

 苦笑しつつ軽く腰を浮かせ、シャワーノズルを取って鈴の頭に向ける。髪にシャンプーが残らないよう、丹念にお湯を掛けていくと、タイルを白く濁った水が流れていった。しばらくそうしてから、最後に鈴が片手で束ねた髪を胸の前に持っていき、弱く絞る。重たそうな房が大量の水分を吐き出して、程良く肉の付いた太腿を濡らした。
 これでお互い準備完了。どうせまた汗を掻くし、精液やら愛液で汚れるだろうから、身体は洗わない。

「それで、どうするの?」
「とりあえず、床に寝転んでちからを抜け」
「こうかな」
「ん、そんな感じ。よし、そのままじっとしてろ」

 椅子を端に除け、仰向けになった僕の腰上に、突然鈴が跨った。
 温まってほんのり赤く色付いた肌と、どことなく嬉しそうな表情が目に入る。控えめな二つの膨らみも桜色に染まっていて、思わず唾を飲む。その隙を正確に察し、ふっと鈴の頭が視界から消えた。同時、鳩尾の辺りにぬめった感覚が走る。
 舌だ。

「れる……んん、れろ、れろ……」

 猫が獲物の皮膚を削るみたいに、少しだけざらついた舌で執拗に僕の身体を舐め回してくる。鳩尾から胸板に移動し、ねっとりとした唾液を塗りたくりながら、まずは左の乳首に到達。舌先がぐりぐり先端を抉り、むず痒さ半分気持ち良さ半分で僕は小さく声を上げた。その反応に満足げな笑みを見せ、右側も同じようにいたぶる。決して舌先以外を使うことはせず、繰り返しそこだけを攻め立てる鈴は、明らかに楽しんでいた。身を捩ろうとしても、すぐに肩を押さえつけられる。女の子とはいえ、日頃それなりに鍛えている鈴は非力じゃない。単純な筋力なら僕の方が強いけど、動きを制限するくらいなら鈴の力でも充分だ。
 心行くまで胸周りを舐め尽くし、鎖骨をべとべとにした後は首を舌が這う。何とも言えない気分。鈴が僕を傷付けることはないとわかっていても、生死に直結する箇所を無防備に蹂躙されてる現状には、倒錯した快感を覚える。

「ん……理樹にはあんまりヒゲがないな。そってるのか?」
「ほとんど生えてこないんだよ。結構気にしてるんだけどなあ……」
「まあ、あたしはその方がいいと思う。舐めやすい」

 喉元を通り過ぎ、顎から頬へ。あからさまに唇を避けながら、顔中に鈴の唾液が広げられていく。
 散々そうしてからようやく唇に舌が触れる。でも、まだ軽くつつくだけ。僕は鈴が捉えられなくて、おそらくは彼女の思惑通りに焦らされる。自分からねだってしまうのが何となく癪で我慢してるけど、正直、かなり限界が近かった。
 無意識のうちに宙空へ舌を伸ばす。周囲ばかりをぺろぺろと舐め続けていた鈴は、それを待ってましたというように唇で食んだ。ゆっくりと口内に侵入していく舌先が、先ほどまで僕の顔を汚していた鈴の舌に当たる。扉の方から来る隙間風が唾液で濡れた身を冷やし、その冷たさの分、絡み合う舌の熱さをはっきりと感じる。

「ちゅぷ、ちゅ、くちゅ……んふ、ろうら、りひ」

 上から覆い被さるようにして、粘り気の強い唾を流し込まれた。
 得意げな鈴の言葉に応える余裕はない。喉奥に留まろうとする仄苦い熱を、深いキスで求め合いながらも嚥下する。二分か、三分か、あるいはもっと長かったのか、解放された時には息苦しさと興奮で頭がくらくらしていた。

「今日のあたしは一味ちがうぞ」
「……みたい、だね」

 互いの唇の間を、白い糸が一瞬だけ繋ぐ。
 薄い影を纏った鈴は、ぞっとするほど――壮絶なまでに色っぽかった。
 心臓が、震える。しきりに存在を主張している股間の肉棒が、期待でさらに硬さを増した。
 足を開いてお腹の辺りに座る鈴のそこも、既にとろりとした蜜を零し始めている。
 もういつでも挿入できるのに、何故か彼女は再び頭を落とした。拷問めいた舌での攻め。今度は腹から下り、臍に舌先を差し込まれる。くすぐったさと快感に近いもどかしさに呻くと、気を良くした鈴は重点的に同じ箇所を抉ってくる。苦しくて、切なくて、どうにかなりそうだった。

「鈴……っ」
「ものほしそうな顔だな。でも、まだがまんしろ」

 下腹部はやっぱり素通り。内腿をちろちろと舐められる。そんな弱い刺激にも肉棒は過剰な反応を示すものだから、辛い。心臓がそこにもうひとつできたみたいで、呼吸も覚束なくなってきた。
 触れられればそれだけでも達しそうな状態で、どうして自分は頑張ってるんだろう、と、当初の目的を忘れかける。そこに、

「あむ」
「っ、あっ!」

 浅く咥えた鈴の甘噛み。
 焦らしに焦らされた僕は、突然の淡い痛みに耐えられなかった。
 衝動が、下腹部から抜けていく。精気をごっそりと持ってかれたようで、しばらくまともに口も開けなかった。
 凄まじい脱力感を覚えながらもどうにか頭を起こすと、唇の端に白濁をこびりつかせた鈴が、排水溝に向けてぺっと精液の塊を吐き出すのが見えた。……そういえば、こんな風にされたのは初めてだったっけ。嬉しい反面、勝手な気持ちだってのはわかってるけど、できれば飲んでほしかったなあ、とも思ってしまう。本当にちょっとだけ。
 僕の視線で気付いたのか、赤い舌が口で受け損ねた残りを拭う。たまらなく淫靡な光景。ここ数時間で二度の射精を終えているにもかかわらず、下腹部の方に再び血と熱が送り込まれていくのを感じる。

「やらしいやつだ。このヘンタイめ」
「そういう鈴だって、随分濡れてるみたいだけど」
「あたしはいいんだ」
「えぇー」
「それより、また大きくなってきたぞ。どうしてほしい?」
「……鈴の中に入るのは」
「そうか、もっといじめてほしいのか」

 まるで話が噛み合ってなかった。というかどう考えてもわざとでしょ、鈴……。
 割と必死なアイコンタクトでの懇願をさらっと無視して、最大サイズの六割くらいまで膨らんだペニスを、鈴はぱくりと口に含んだ。こういう経験はないはずなのに、舌使いがやたらと巧みで、すぐに鈴の口内には収まり切らなくなる。

「ほんは、ちゅぷ、ほおは、あはひほあはひ、はいっへはほは
「ちょ、鈴、っ、その状況で喋らないで……!」

 吐息が亀頭をくすぐり、声は振動となって微妙な刺激を伝えてくる。遊ぶ舌先が尿道口を割り広げようと幾度もつつき、かと思えばざらついた表面で裏筋を舐め上げる。すぼめた唇で前後にしごけば、潤滑剤代わりの唾液がぐちゅぐちゅと卑猥な音を奏でる。程良く緩急の付いた動きは、確かに、今までの鈴と一味違っていた。
 頑なに手を出さず、口だけで奉仕する姿が、酷く艶めかしい。
 上気した頬が膨らむのに合わせ、じゅぶぶぶ、と長いストロークで全体が吸われた。込み上げる射精感は、奥歯を強く噛むことで抑える。さすがに二度目はまずい。こんな短時間じゃ情けなさ過ぎる。
 左手で横腹の肉と皮をぎゅっと摘まみ、その鋭痛で気を紛らわせた。

「く、う……」
「もご……む、はぁ。よく耐えたな」
「そりゃあ、僕にだって、意地はあるよ」
「ならあと少しだな」
「ごめんなさいもう限界間近です勘弁してください」
「よし。じゃあしょーじきな理樹にはごほうびをやろう」

 このまま攻められたら間違いなく果てる。
 それが明白な以上、迂闊な言動は危険だ。というか冗談抜きで限界なので、虚勢を張る余裕もなかった。鈴の頭が隠していて自分の股間は見えないけれど、今にもはちきれんばかりの状態でビクンビクンしてるのが手に取るようにわかる。
 どうするつもりなの、と無言で問うと、僕の足の間で鈴はにやりと笑んだ。
 細い腰が浮く。何も遮るもののない、露わになった局部を惜しげもなく晒して、そそり立つ肉棒を目指しそろそろと下りていく。とろりとした雫が亀頭に垂れ、僕は無意識のうちに背筋を震わせた。
 でも、先端が沈みかける直前、こちらを嘲笑うかのように鈴の腰が動いた。薄く開いた秘裂は僕を迎え入れることなく、茎の裏側を擦る。そのまま体重でお腹の方に倒れたペニスは、割れ目の奥に潜む柔らかな肉が押さえつける形になった。

「……こんなやり方、どこで覚えてきたの?」
「きぎょーひみつだ。こういうのをたしか“すまた”って言うんだったな。理樹、あってるか?」
「いや、僕に訊かれても……」
「頼りにならないやつだな」

 そんな偏った知識面で頼りにされても困るんだけど……。
 ともあれ、さっきとはまた別種の気持ち良さに、ただでさえ瀬戸際にいる僕は自分を抑えるので精一杯だった。
 こっちがどれだけ追い詰められてるかは見ればわかるだろうに、彼女はやっぱりペースを崩さない。繋がらず、けれど重なった下腹部を、静かに前後させ始める。

「んっ……、なんか、もどかしい、かんじだ」
「だ……だったら、無理に、焦らさなくても、いいんじゃ、ない、かな」
「ことわる。それに、なんだか、理樹をいじめるのも楽しくなってきた」

 抗議しようと口を開くより早く、鈴の腰が捩じられる。割れ目に挟まったペニスも釣られて軽く曲がり、擦過の快感も相まって物凄い脂汗が出た。衝動がギリギリのところまで来てるのを感じる。もしこれで挿入なんかしたら、あっという間に射精しちゃうんじゃないだろうか。
 埋められた隙間から粘ついた水音が響き、着々と理性が削り取られていく。ここまでとは違い一方的なものでない分、鈴もまた刺激を得て艶めいた声を上げる。溢れる汁が結合部の滑りを良くして、さらに気持ち良さを増す。
 視界の先で揺れる鈴の上半身。跳ね飛ぶ汗からは、脳髄が甘く痺れるような、女の子の匂いがした。

「ふ、ちょーし、ん、あっ、でて、きたぞ……んぅっ」
「うう、鈴、僕、もう……ふっ、あ、はっ、はっ、く……!」

 互いの間で蜜が泡立つ。ぬちゅ、ぬちゃ、と重く卑猥な音を立て、結合部で性器同士が擦れ合う。
 爆発しそうだ。股間がざわついて、今まで必死に耐えてきたものを全て外に放出したくなる。
 瞳の奥がちかちかして、痛い。
 あからさまに限界の近い僕を見た鈴は、小さく頷き腰の振りを速めた。雫が散る。鈴口に先走り以外の液体が滲み出すのを感じ、終わりを悟った。
 そこから後は、声にもならない。
 苦痛さえ伴う勢いで迸った精液が、結合部で溜まりを作る。密着したままの鈴の入口を叩きながら、仰向けになった僕のお腹に流れ、左右を滑り落ちてタイルの網目に染み込んだ。
 軽くイったのか、僕に跨った状態で身を震わせる鈴に、抗議の視線を送る。けれど、

「よくがんばった」
「………………」
「だいじょーぶだ。理樹ならあといっかいくらいいける」

 まるで悪びれずにそんなことをおっしゃった。
 これまでずっと受けに回ってた反動なんだろうか。今日の鈴は本当にノリノリだ。

「さすがに……四回目は、無理じゃないかな……」
「なせばなる。というかあたしはちゃんとイってないから満足させろ」
「えぇー」

 ノリノリを通り越して、傍若無人かもしれない……。
 とはいえ鈴が頑張ってくれたのも確かだし、せめて最後くらいはいいとこ見せたい、って気持ちもある。
 少し悩み、苦笑してから、

「鈴。とりあえず、キスしよう」
「ん」

 両手を広げて迎え入れると、下腹部の位置はそのままに、鈴が倒れてきた。湿ったお腹とツンと乳首の立った胸が合わせ重なり、心臓の鼓動を聞く。落ち着いた、優しい速度。とくん、とくん、と繰り返す音色に、僕は、愛しさを見い出す。
 可愛いと思う。
 こんなにもまっすぐで、素直で――僕の大好きな、女の子。

「ちゅ、ちゅ、……んふ、たまには、こーいうのもいいな」
「最近、舌入れてばっかりだったからね」
「理樹がえろいのがいけない」
「それは鈴も同罪じゃない?」
「……かもしれない」
「でしょ?」

 ちょっと納得できない、というような表情は敢えてスルー。もう一度顔を近付ける。
 唇を触れ合わせるだけの控えめなキス。少しでも長く、柔らかな感触を楽しむために鼻で息を抜きながら、鈴の背に置いた手に力を入れて、きゅっと抱きしめた。鼓動が若干速まり、小さな二つの膨らみが胸元で潰れる。身体の中に熱が溜まり、緩やかにペニスが硬さを取り戻していくのがわかった。
 亀頭の辺りが鈴の内腿をぺちぺちと叩く。これで大きくしてしまう自分が、ちょっとおかしかった。

「んー……ぷはぁ。そろそろ準備できたか」
「案外何とかなるもんだね」
「でも、びみょーにちっちゃい気がするぞ。さわっていいか?」
「あ、うん、いいけど」

 腕を解くと、上半身を起こした鈴が手探りで股間のモノを掴んだ。
 人肌のぬくもりに包まれて、うっ、と声が漏れた。汗と水で湿った指が、先端から滲み出る先走りの汁を絡めてくにくにと揉んでくる。ちゃんと勃起はしてるものの、最初の射精前と比べれば幾分力強さが足りない感じだ。僕としては、ここまで大きくなったのが奇跡みたいなものだと思うんだけど。どう考えても出し過ぎてるので、明日が怖くもある。
 満足するまで確かめたのか、五指が肉棒を離れた。
 名残惜しい気持ちは心の内に留めておく。この後鈴がどうするかを、僕は正しく理解してるから。

「合格だ。もういけるな」

 支えを失っても、ペニスは倒れない。ほぼ垂直に立ち、繋がるその瞬間を待っている。
 だから鈴は腰を浮かせた。そしてゆっくりと膝を折り、片手で入れやすいよう秘裂を開いて沈み始める。眩暈がするほど淫靡な絶景。割れ目に潜む肉が蜜をこぼしてはひくつく。鮮烈な、生々しい赤の色を見た途端、なけなしの精液が尿道を駆け上がりかけた。
 震えで僅かに前後する亀頭を、ぱくりと広がった入口が捉えた。抵抗は一瞬、にも満たない。鈴がわざと膝の力を抜くのと同時、まるでそこに収まるのが当たり前だというように、ペニスが膣を掻き分ける。勢い良く肉襞を擦り、一息で子宮口までを貫いた。結合部が完全に密着して、僕と鈴はひとつになる。
 奇妙なくらいの安心感。不思議だった。
 たくさんこうして身体を重ねて、わかったこと。
 何もかもが、言葉よりも早く、強く、偽りなく、伝わってくる。

「鈴……動いてもいい?」
「だめだ。今日はさいごまで、あたしがやる。あたしが、尽くしてやる」

 まず一回、重力に任せて落ちた衝撃でイったらしい。強がりを口にしていても、しばらく鈴は動けなかった。気持ち良くしてあげたい、自分でも気持ち良くなりたい、そういう思いもあったけど、僕は静かに彼女が落ち着くまで見守ることにする。折角のやる気を挫いて、無駄にしたくはない。
 幸いにも、とろとろに蕩けた鈴の中は入ってるだけでも充分だった。身体は正直だ。かなり激しい締め付けが、今もペニスを襲っている。内頬の肉と皮を軽く噛み千切り、その痛みで快感を誤魔化した。
 少ししてから、己を取り戻した鈴が腰を上下させ始める。綺麗に全身を飲み込まれていたモノが、大量の潤滑液を纏わり付かせて外気に晒され、九割方出てきたところでまた咥え込まれる。隙間を通って溢れる蜜は、奥へ突き進むペニスによって肉襞に塗りたくられ、抽挿を滑らかにしていく。
 やがて、ずぷ、ずぶり、という音は、次第に濁った粘つきへと変化する。

「はぁっ、ん、んっ、どうだ、理樹、きもち、いいか、っ!」
「っく、鈴……!」

 下腹部がぶつかる度に、空気を含んで泡立った愛液が弾けた。お腹や腿に飛び散ったそれは、火照った身体の熱を更に上げる。脳髄に響き渡るかのような、鈴の嬌声。体型的には子供っぽさの抜けないところもあるけど、こういう時の彼女は驚くほど大胆で、艶やかに見える。胸が高鳴って、どうしようもない。股間が疼く。動きたい、という衝動を、それでも、僕は奥底に押し込めた。
 約束とも言えない、言葉。
 鈴は「さいごまで、あたしがやる」と宣言した。その思いを、精一杯尊重したい。守りたい。
 なら、ちょっと我慢するくらい、どうってことないはずだ。
 こつん。膣内に浸る肉棒の先端が、鈴の最奥に辿り着く。こつん。離れても、遠ざかっても、飽きることなく沈み切る。
 一切の隙間を作らずに、僕は鈴を満たして。鈴は僕を包み込む。
 どこまでも行けそうな気がした。
 ふたりなら。
 きっと。

「ひ、あっ、あ、ふぁ!」

 もう止まれなかった。まるで自分のものじゃないみたいに、鈴の腰が動く。際限なく貪ろうとする。呼吸さえ途切れ途切れになって、乱れて、苦しい。何度も、何十度も侵入した鈴の中は、僕の形になってると言ってもよかった。怖いくらいにぴったりだ。ペニスが埋まり、涎まみれの顎が浮いて首筋が露わになる。今は仰向けでそこに舌を這わせられないのが、少し残念だった。逸らされた双丘にも。汗の珠が伝う健康的な肌にも。届かないと、余計に欲しくなって仕方ない。
 だから代わりに、固く握っていた両手で、鈴の足首を掴んだ。
 触れた箇所と、繋がった箇所。気持ちが流れていく。僕の意図を、鈴は正確に理解する。

「あ、んあっ、りっ、りきっ、りきっ、りきぃ!」
「出る、出るよ、出るよっ、鈴!」

 ――その瞬間だけ、たぶん、僕達は人間じゃなかった。すべてを忘れて、たったひとつのことだけに意識を傾ける。自分の何もかもを、相手に、刻み込む。言葉よりも純然たる叫び。世界がまっさらになって、もう一度、生まれ落ちたかのような。
 猛りが治まった後、残った震えが、白い塊を吐き出した。
 くたりと鈴の細身が倒れてくる。それをどうにか受け止め、しばらく二人で息を整えてから、僕はペニスを引き抜いた。ずるり、という音がしそうな感じで、些か縮んだモノが外気に冷やされる。
 ……久しぶり、だよね。
 前にそうしたのはいつだったろうかとぼんやり記憶を探りながら、まだ少し朦朧としている鈴の頬をぺちぺちしてみる。
 あどけなさと妖艶さの混じった顔が、緩やかにいつもの調子を取り戻した。

「……いたいぞ」
「ごめん。でも、大丈夫?」
「へーきだ。ちゃんと“あんぜんび”は計算してある」
「いや、そうじゃなくて……それも大事なことだけど……」
「わかってる。ちょっとはげしかったな」
「鈴が一方的に、だけどね」
「しょーじき、気持ち良過ぎて、病みつきになりそうだ」
「僕はこういうの、時々で充分かなあ……」

 でも、二度とやりたくない、とは思わない。
 やっぱり、鈴が頑張ってくれたのは、本当に嬉しかったから。

「そろそろ身体洗う?」
「んー……もうすこしだけ」

 冷え切る前にはシャワーを浴びよう。そう自分に言い訳して、僕は鈴を抱きしめた。










 結局あんまり積極的に鈴に触れることができなかったので、せめて身体は僕に洗わせて、とお願いした。代わりにこっちも鈴に任せることを条件に許可が下り、大義名分を得た僕は、胸の辺りを重点的に擦ったり、執拗に腋を磨いてそこに息を吹きかけたりと、色々な意趣返しを敢行して一回かなり思いっきり殴られたけど、それに関してはもう完璧に僕が悪いからしょうがない。仕返しとばかりに股間を攻められ、結局やる気になっちゃって本日五回目の絶頂直前まで行きかけた僕達は、今度こそえっちなことは自制しようと誓った。
 そうして今、ゆったりとした気持ちで二人、湯船に浸かっている。
 勿論あれこれしてる間に入れたわけじゃない。寮室のお風呂には湯沸かし機能が付いてないし、シャワーを使う以上、温度が高過ぎると全身火傷なんて事態にもなりかねない。じゃあどうしてかというと、単純に、入る前からお湯が張られてたのだ。……つまり、この状況は最初から仕組まれてたらしい。
 いったいいつから考えてたんだろう。

「なんだ、あたしの顔に何かついてるのか」
「ううん。そうじゃなくて」
「なら見惚れてたんだな」
「……実はそうかも」

 たまには自分が攻める側に回りたいってのは、まあ、本気で言ってたんだと思う。鈴には負けず嫌いなところがあるから。
 けれど、僕のために頑張ってくれたのも確かなこと。意地っ張りなのか素直なのか――そういうところも可愛く見える時点で、相当鈴に参ってるんだな、と、改めて感じる。
 見惚れてたし、見直した。
 前よりもっと、好きになる。

「鈴、おいで」

 狭い浴槽の中で向かい合って座っていた僕は、両手を広げて鈴を迎え入れる。
 大人しく膝の上に小柄な身が収まり、なるべく性的にならないよう、肩口から覆い被さる形で抱きしめた。
 右肩に顎を置く。視界に映る、ほんのり火照った鈴の頬。

「よく、あいつらを抱えるんだ」
「猫の話?」
「ん。そうすると、気持ち良さそうに目を細める」
「今の鈴みたいだね」
「あれはきっと、安心できるからだな」

 少しだけ、鈴が首を回せば、瞳が合う。
 あとはいつも通り。

 ……のぼせるくらいに、あったかいキスを。










 あとがき

 頑張った! 私よく頑張った! 〆切間に合ったよ!
 ……ということで、はじめましての人ははじめまして。顔馴染みの方にはとりあえず「この変態!」と罵っておきますね。神海心一です。おそらく大半の人が真っ当な、シリアスだったりギャグだったりほのぼのだったりな話を書いてる中で、普通に直球エロを投げ込んだ私は実に空気読めてませんね、はい。でも、たみフルと聞いて思いついたネタがこれしかなかったんだ……。元々自分のところで無印ヒロインの十八禁を書いてたんですけど、EXでは一人「エピローグの一部としてえっちが組み込まれている」ために、こっちのコンセプト(現実世界での初体験)から鈴だけは外れてしまってたんですよ。それでずっと書く機会を失ってたんですが、こうして表に出すことができて、何だかんだでよかったのかもしれません。たぶんこのふぇすたなかったら書かなかったでしょうし。
 設定が鈴フラグ込みの本編終了後、即ちやっちゃった後なので、もう散々致してる二人です。一応事故から半年経ったくらい。冬真っ只中ですかね。一切季節感出してませんけど、その辺は脳内補完していただけると有り難いです。
 テーマとしては割とそのまま「日常の一部としての性行為」。初体験ってのは衝撃的で、とっても大事な思い出にもなりますよね。でも、何度も身体を重ねれば慣れてくるもので、恥ずかしさとか抵抗心も薄れてくる。「そうすること」が当たり前に近くなるわけです。ナチュラルにえっちしようと言って、普通にするのは飽きたからとシチュエーションを変えたり、攻守を逆転させてみたり。そしていつもと違う状況の中で、繰り返しになりかけてた行為から、新鮮な「何か」を発見する。
 だからある意味、これは「日々の愛しさ」を謳うおはなしなのかも、ですね。
 冒頭ではあまりの筆の乗らなさ、文章の拙さに悶えてましたが、終盤に入る頃には結構割り切ることができました。ちょっと置いて自分で読み返せば、多少はマシに見えるのでしょう。あとは読み手の皆さんに委ねるだけです。
 愛しい彼らに幸いを。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



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