夕暮れ時。
ようやく委員会の仕事を片付けた私は、鞄を手に自席を立つ。
帰ろうと一歩踏み出した所で、教室の入り口に人が居るのに気付いた。
「お疲れ様。佳奈多さん」
「直枝……理樹」
そこに居たのは他でもない直枝理樹だった。
「毎日毎日大変だね。こんなに遅くまで」
彼は穏やかに微笑みながら教室の中へと入ってくる。
「別に、いつものことよ」
「そういうことをいつも普通に出来るのって凄い事だと思うよ」
いつの間にか彼は私の目の前まで来ていた。
「そうやっていつも頑張ってる佳奈多さんが……僕は好きだよ」
「え……」
向かい合う私と直枝理樹。
距離は既に1mも無い。
「な、何を……何を言っているの」
「そうやって照れるところも、全部大好きだよ」
彼が私の肩を掴む。
不思議と、拒絶しようという気持ちは無かった。
そのまま彼が顔を近づけてきて、私たちは――――――――
「っ!?」
ふと気がつけば、目の前に見えるのは見慣れた天井だった。
「…………なんて夢…………」
前髪をくしゃりと握る。
まるでフラッシュバックのように、夢の中の情景が私の頭を駆け巡った。
「っ……」
思い返すだけで顔が紅くなる。
まるで自慢にならないが、実は私は異性と付き合った経験などはない。
言い寄られた事が無いとは言わないが、心を揺り動かされた経験は皆無だ。
そして、言い寄ってきた男の中には直枝理樹など及びもつかないほどいい男もいた。
こんな夢を見たのは、きっとこの2日間直枝理樹と接点がたまたま多かったせいにちがいない。
別に私は葉留佳と違って直枝理樹のことなど何とも思っていないのだ。
そんな私が、よりにもよって、直枝理樹と――――――
「ありえないわ……」
そう、ありえない。
クラスは違うわ委員会は違うわ部活には入っていないわ更には風紀委員の取り締まり対象でその上色んな女子生徒から言い寄られていたりする直枝理樹のことを私が好きだなんてありえない。
何より直枝理樹は葉留佳の想い人なのだ。
以前ならばいざ知らず、今の私に葉留佳の想い人を横取りするなんてことが出来るはずは……ってそもそも私は彼のことなんてなんとも思ってないはずじゃない。
あぁ、ダメだ。
完全に思考が乱れている。
「覚えてなさい……直枝理樹」
まだ薄暗い部屋の中で、私は直枝理樹への復讐を誓うのだった。
―――逆恨みの事を復讐というかは別として。
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