春眠暁を覚えずとはよくいったものだ。 陽の匂いのする布団の中で寝返りを打ちながら、朋也はそうひとりごちた。 普段の朋也ならば目覚まし時計で時間を確かめ、慌てて仕事先に走り出すところなのだが、今日の朋也は違った。 それもその筈。今はゴールデンウィークという社会人にとってはとてつもなく有難い休暇システムの真っ最中なのである。 おまけに朋也が今被っている布団はつい昨日、朋也の彼女が干してくれていたということもあり、尚更布団から離れがたい魅力がある。 ガチャ…………がばっ!! 「おはよう、朋也。今日もいい天気だぞ」 突如部屋に入ってきた女性は、掛け布団を無造作に剥ぎ取ると、笑顔で朋也にそう告げた。 行動の乱暴さとは裏腹に、彼女は本当に屈託の無い笑顔を浮かべている。 「……智代」 「ん、どうした?朋也」 「寒い」 体を丸めたまま、朋也は顔だけを智代に向けて抗議する。 だが、そんなものが彼女に通じるはずはなかった。 「パジャマのままだったら当たり前だ。ほら、早く起きろ」 「……社会人の俺にとって天国とも呼べる休日の朝に早起きしろというのか、お前は」 「昨日もそう言って眠っていた気がするのだが? 私に同じ理由は二度は通じないぞ」 言いながら朋也の体を起こすべく肩に手をかける。 「え……?」 どさっ。 だが、智代は気がつくと横倒れになって部屋の壁を眺めていた。 しかも何故か体全体が暖かい感覚で包まれている。 「……だったら智代も一緒に寝よう」 「っ!?」 耳元で聞こえたその声で、ようやく智代は現状を悟る。 智代が朋也を起こそうと肩に手をかけた瞬間、朋也は智代の手を掴んで布団に引きずり込んだのだ。 そして、逃げられないように一瞬のうちに抱きしめてしまったのである。 「んー……智代の体ってやーらかいなぁ…それにい〜匂い…」 まるで子供のような甘え方、といった感じで抱きしめてくる朋也。 「と、朋也……卑怯ではないか」 「何が〜?」 「そんな事を言われては動けなくなってしまう……」 頬を僅かに朱に染めながらぼそぼそと話す。 ……ヤバイ、すげぇ可愛い。 「智代……今のお前すっげー可愛い」 「なっ……!!」 気付いたときには、朋也は思ったままを口にしてしまっていた。 「普段の智代もいいけど、そうやって照れたり反応に困ってるのはもう別格。有り得ないくらい可愛い」 「そう言ってくれるのは嬉しいのだが、微妙にからかわれている気がするのは気のせいか?」 「ひどいな…」 呟きながら朋也は少しだけ自分と智代の体を離して、智代の顔を正面から見つめる。 そして、一瞬間を置くとそのまま己の唇を智代のそれにあてがった。 それを何度も何度も繰り返す。 まるで蜜蜂が花の蜜を何度も吸いだすかのような、甘いフレンチ・キスを。 「こうやって何度もキスしたくなるくらい可愛く感じたってのに」 「……馬鹿」 照れたのか拗ねたのかどちらかはわからないが、智代は頬を真っ赤にして顔を背けてしまった。 だが、朋也はそれに構わず言葉を紡ぐ。 「それに、同じ眠るのでもどうせなら智代の温もりを感じながらの方がいい」 「…………」 「間違いなく智代が傍に居てくれてるって感じれて、安心出来るからな」 「……私は」 ふと、智代が口を開いた。 「私は、何処にも行かない。朋也の事が大好きだから……もう絶対に離れたりしない」 「……お前、大分恥ずかしいこと言ってるのな」 「お互い様だ。それに、言い始めたのは朋也だろう」 「そうだったな……なぁ、ほんとにこのまま眠っていいか?」 自分も赤くなってしまった頬を観られないように、そっぽを向いたままの智代を後ろから抱きしめた形のまま引き寄せる。 智代は、拒否せずに、朋也のなすがままに身を任せた。 「……仕方ないな。今日だけ、だぞ?」 「出来れば毎日がいいんだけどな」 「……馬鹿」 言葉とは裏腹にとても優しい口調で、智代はそう呟いた。 そして、2人はそのまま眠りに落ちた。 愛しい人の温もりを、身近に感じながら―――――。
後書き うん。なんか朝っぱらからいちゃいちゃするSSを書いてみようと思ったから書いてみたはずなんですが。 ……まぁ人生色々あるよね。うん。 でもこんなお休みの朝は理想の一つです。 いいじゃない、彼女に起こされてでも眠いからとかいって布団に引きずり込んで一緒に寝るの(黙れ) しまさんのSSの7割は妄想(というか欲望)から出来ています。 2004/10/30脱稿 200503/28UP拍手ボタンです。何か思うところありましたらポチっとどうぞ。 もどる