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 BL本があった。
 学校の図書室にである。

「なんですかこれはっ!!?」

 奥まった場所の本棚の一角をででんっと占拠しつつあるその一大勢力に、図書室であることにはたと気づいた自称美少女、
他称ツンデレ、一家に一台、笹瀬川佐々美は静かに絶叫した。慌てて周囲を見回すが、放課後―――それもソフト部
活終了後の、陽も大分暮れた時刻のこと。進学校とはいえ、この時間は既に客足も途絶え、図書委員も奥で購入した書籍やら、
返却された本を整理しているのか気配すら窺えない。
 少なくとも、今の自分の声を耳にして「なんだなんだ」と興味本位で顔を覗かせるような輩は居ないらしい。
まずは一安心と胸をなでおろすと、恐る恐るといった様子で、笹瀬川は手にしたどぎつい表紙に再び目を転じていた。

「……ごくり」

 絵柄は良くも悪くもありがちな少女漫画風。整った顔立ちの美少年と美青年が裸体をくねらせ、互いに向き合っている。
薄倖そうな顔で少し嫌悪の色を浮かべ、少年は唇を半ば開いた状態で、悪そうな起業家然とした青年に指で顎を押さえ
られている。唇は今まさに触れそうなほど迫っており、背徳の雰囲気を醸す為か、幾筋もの鎖が二人を絡め取っていた。
 タイトルは『俺のペット』。
 色々と容易に想像でき、なおかつ程好く頭の悪いセンスに、笹瀬川の頬がひくりと痙攣する。
 ぱっと見るだけでも、それに類する書籍およそ100冊。どれもこれも、野郎がくんずほぐれつ、学校の図書室という崇高な場で、
アナルの純潔を散らしていた。これだけ大々的に陳列されていることから推察するに、図書委員が購入して並べているのだろう。
自重というか、そもそも顧問の教師は一体ナニをしているのか?

「これは明日にでも風紀委員に報告する必要がありますわね……」

 そろそろ大学入試も視野に入れ、勉学に励もうかと図書室の扉を潜った矢先にコレである。
 ショッキングのあまり、やる気も失せた佐々美は鞄を抱え直していた。家に帰るつもりなのだろう。
頬をやや赤らめて退散した佐々美は…………五分後、何故か例の一角で件のBL本を熟読していた。
時折「けしかりませんわ!!」、「全くもってけしかりません! ふぅっ! ふうっ!」という荒い語気が聞こえてくる。

「気に入っていただけましたか?」

「ひゃうぅぅんっ!?」

 突如湧いた言葉に、ケッタイな悲鳴を上げる笹瀬川。腰を抜かした状態で、しかし即座にBL本を背後に隠した笹瀬川が見た人物は、
やはりというか、西園美魚その人だった。

「西園さん!? ななななななななな、なんであなたがここに居るんですか!?」

「これでも図書委員ですが何か?」

 図書委員のロゴが入った腕章を、ブルマから顔を出したパンツを戻すような仕草で、くいっと持ち上げる。
ついでにメガネ属性も追加されており、装備は万全である。

「そろそろ閉館時間なので退室願います。……それから、それ、借りるのであればお早めに。
 新刊なので今日を逃すと2週間は貸し出し状態が続きますよ」

 指差した場所は、言うまでもなく笹瀬川が必死に背後に隠しているブツである。全てを見透かされている事にビクリと震え、
うろたえた瞳を一瞬さらけ出したものの、

「馬鹿のこと言わないでくださいまし!! 私がこんな下劣な本を読むわけがないじゃありませんか!! あくまでも検閲ですわ!
 こんな物を図書室の棚に置くなんて、図書委員は一体何をやっているのですっ!?」

「はいはい、テンプレテンプレ」

 顔を真っ赤にして言い訳をまくし立てる笹瀬川に、西園の対応は冷めたものである。

「ば、バカにして!! 明日にでも風紀委員に報告させて頂きますけれど、よろしくて!?」

「笹瀬川さん。これが何か分りますか?」

 携帯を眼前に差し出され、勢いを殺された笹瀬川は不快な表情を露わにする。
 しかし、ディスプレイに映されていた画像を目にした途端、思考よりも先に手が動いた。
 西園の携帯を奪おうと、日頃から鍛えられた笹瀬川の右腕が唸りを上げるも、すんでで持ち上げられて空を切る。

「西園さん!! 今すぐそれを消去なさいっ!!!!」

 そこに映し出されていた画像は、頬を染め、興味津々な顔でBL本を熟読している笹瀬川佐々美の姿だ。
 体育座りしている正面斜めのスカート襞の奥からは、神掛かった角度で黒のショーツをくっきりと捉えている。
 一体いつ撮ったのか、笹瀬川はまるで気づかなかった。

「自慢するわけではありませんが、私、他人に気づかれずに尾行することと、盗撮だけは得意なんです」

 全然自慢にならない事をどこか誇らしげに語る淑女然とした西園に、悔し涙すら浮かべた笹瀬川は、力ずくで奪おうと躍起になる。
 帰宅部と体育会系所属。乱闘になった場合、どちらが勝つかなどいうまでもない事だが、西園を組み敷いて馬乗りなった笹瀬川は、
 ようやく携帯をもぎ取って勝ち誇った笑みを浮かべている。

「ふ、ふふふふふ……残念でしたわね。これでもう証拠はありませんわ……!」

「ふふふふ、残念ながら画像ファイルは既に自宅PCに転送済みです」

「…………」

「あ、怒りました?」

「……鍵は」

「はい?」

「貴女の自宅の鍵はどこかと聞いているの!」

「乙女が大事なものを秘す場所と言ったら、膣内か乳房の間と相場が決まっているじゃないですか」

「そんな相場知りませんっ! いいから出しなさい! 今すぐ! でないと実力行使させていただきますわ!」

「そういって、笹瀬川は組み敷いた西園の制服を力任せに剥ぎ取った。「いやっ……!」西園の必死の抵抗も虚しく、
笹瀬川は舐め尽すようにその白い肌を犯していく。華奢な身体を折るようにして下着を攫い、両腿を持ち上げると、戦慄く
西園の乙女の園を、滾る笹瀬川は指でしっかとこじ開けていた。「なんですこれは? 口では散々嫌といいながら……濡れているj」」

「荒唐無稽な卑猥なこと口走らないでくださいまし!」

「身体をまさぐっているのは事実じゃないですか」

「服のポケットよ!」

 完全無欠に否定したものの、肝心の寮の鍵が見当たらない。西園の言葉の真偽を問おうかと、思わず下着に手が伸びそうになる
自分を堪えると、笹瀬川はとりあえず西園の首根っこを捕まえたまま西園の鞄の場所まで案内させる。

「これはもしや、先ほど読んでいた『まんこ☆ろりん』氏の作品再現ということなんでしょうか? それなら私に首輪を付けるなりして、
四つん這いの裸で校内を巡る鬼畜プレイでないと―――」

「西園さん」

「はい、なんでしょう?」

「その蛆の湧いた思考を駄々漏れさせるのを止めて頂けません?」

「笹瀬川さん、現実から目をそむけてはダメですよ。好きなものは好きと胸を張ってこそ価値があるんです」

「秘すれば華っ! 少しは淑女の嗜みというものを身につけたらどうですか!?」

「つまり、『自分は隠れBLオタだけれど、恥ずかしくてそんなのカミング・アウトできるわけじゃない』と?」

「そんなこと一言も言ってません! そもそも私はBLなんて好きじゃありませんわっ!」

「ガッついてBL本読んでいた人がそんなこと云っても全然説得力が感じられませんね」

「きぃ〜〜〜っ!!!!」

 などというやり取りをしつつ、図書室の入り口手前に設えられたカウンターの裏手―――司書室までやってきた笹瀬川は、
西園の鞄をひったくると、ようやく寮の鍵と思しきキーケースを発見する。

「ほら、さっさと済ませますわよ。西園さん、部屋まで案内なさい」

「わんわんっ」

「…………今度は何です」

「いえ、笹瀬川さんはこういう趣向で、私のアナルに尻尾モドキを挿入しつつ『ベス』とか『ポチ』とか命名しそうだなぁと思いましたら、
不思議と勝手に犬の真似事を―――」

 たかだか数分経過しただけだというのに、こんなにも疲れているのはどうしたわけだろうと佐々美は額に手を当てる。
そして目の前の西園美魚は何を喋っているのだろう。元々変な人だと認識していたのだが、同じ人間とは思えない言語を
口にしたかと思ったら、奇怪な行動を取って笹瀬川の周りをグルグルと周っている。終いには、おもむろに服を脱ぎだそうとするので、
張り倒して正気にしておいた。

「……今の、良い感じです。できれば素足で顔の方を踏んでいただけると嬉しいんですけど……」

「黙らっしゃい!!!」

 前途多難である。



 * * *



「なっ……なんですかこれはっ……」

「趣味です」

 西園美魚の寮部屋を一瞥して絶句する笹瀬川佐々美に、そう言い切った西園の背後には、書庫と呼んでも過言ではないほど
壁一面に設えられた本棚と、溢れんばかりの本があった。事実、溢れている。まともそうな本も何割かは確認できた
が、残りの過半数の内容はBL、百合、そして同人誌が占めていた。
 奇行を重ね続ける西園を宥めすかしつここまで来たが、女子の部屋とは思えぬ圧倒的分量の紙媒体の多さに、
笹瀬川佐々美はさすがに気圧されていた。

「……冊数で言ったら4桁は普通にありません?」

「数えたことはありませんからね……。まぁ、実家の方も含めれば5ケタに手が届くかと」

「はぁ……」

 感心とも呆れともつかない溜息を一つ吐き、本来の目的も忘れて、ふらふらと手にした一冊の同人誌は、
偶然にも先ほど笹瀬川が読んでいた『まんこ☆ろりん』氏の作品『俺のペット』―――通称『俺犬』の二次創作物だ。
 ……いや、というかページ裏を見ると、作者が『まんこ☆ろりん』氏本人である。慌てて笹瀬川がぱらぱらとめくると、
登場人物も同名キャラが散見されていて、どう考えても商業誌のものと平行して物語が進んでいるように見える。

「え、あの……これって先刻の……?」

「出版社にバレたら即刻、打ち首でしょうねぇ……」

 何気ない風を装いながら「ぼそっ」と呟いた西園の溜息は、惜しい人を亡くしたと言いたげである。
あまり聞いてはならないことのようなので、それ以上の追求は自粛する。大手出版社の闇は底知れないということなのだろうと納得して、
笹瀬川は一冊、また一冊と漫画から小説のジャンルを跨いで、ちょっとのつもりが時間を忘れて読み耽ってしまう。
 好きな漫画のBL物を主体として、顔を赤くしたり、もぢもぢする笹瀬川の様を眺めていた西園は
「素質はあった―――ということなのでしょうね」と顎を撫でている。

「というか、ファースト・インプレッションで同人誌への抵抗がなかったところを見ると、やはり隠れオタですか……」

 冷静な分析をひとしきりして、人間観察にも飽きた西園は、そのまま笹瀬川の傍で同人誌を斜め読みしたり、
目的不明の放浪を繰り返した後、ベランダに陣取るとそのまま動かなくなる。



 30分後―――



「……はっ!? 私としたことが、ここに来た理由を危うく忘れてしまうところでしたわ。西園さん例の写真はっ?」

「そんなことより、笹瀬川さん」

「何がそんなことですか!? 話を逸らそうとしても無駄でしてよ。不肖、この笹瀬川佐々美。先刻はあなたのペースに
まんまと乗せられてしまいましたが、今度はそうはいきませんっ。所詮、あれは不意を突いたトリック・プレイ。ちゃんと
身構えていれば、あんな子供だましに引っかかるようなことは、今後一切ないと断言しておいてさしあげますわ!
お〜っほほほほほほほほ!」

「直枝さんと宮沢さんが仲良く深夜のデートに勤しもうとしているんですけれど……」

「どこですか!!?」

 すごい食い付きである。
 おもむろに持っていた双眼鏡を渡すと、西園は男子寮と正門の中間付近を指差して、ベランダから落ちそうになる笹瀬川を誘導する。
 焦点合わせに多少手間取るも、笹瀬川はすぐにそれと分る二人を見つけることができた。後ろ姿ではあるが、
二人ともなにやら荷物を抱えており、和気藹々とした様子がここからでも窺い知る事ができる。

「禁じられた恋というヤツですね、わかります」

「どんな飛躍ですか! BL本ばかり読んでいて脳が腐っているんじゃありませんことっ!?」

 佐々美の辛らつな言葉にも、西園は「“腐”女子ですから」と素っ気ない。

「それに飛躍といいますが笹瀬川さん、いつもならつるむはずの棗さんに井ノ原さんが一緒に行動を共にしていないというのも
変な話じゃないですか? これは、二人には決して言えない何かを隠しているということにはならないでしょうか」

 言われてみると尤もの事のように思えて、佐々美は唸る。

「それは……いえ、ですが……。って、何でいそいそと出かけようとしているんですか」

「ラブホまで尾行して来ます」

「まだそうと決まった訳じゃありません!」

「いえ、ほぼ確定です。今日で3度目の尾行となりますが、市内に1つしかないラブホテル近くで2人をいつも見失うんです。
あの辺りで男子生徒が遊ぶような場所はありません。となると、もう……」

 西園の余韻を含んだ沈黙に、笹瀬川の咽喉が鳴る。脳内では既に直枝理樹と謙吾があんなことやそんなことをしており、
ズブズブのぬっちょんぬっちょんな関係がベッドの上で展開されている。続きが気になって思わず身をのり出そうとする笹瀬川に、
無関係な人間に向ける取り繕った微笑が西園の口元に広がった。

「というわけですので。部屋の方は勝手にしてもらって構わないので、笹瀬川さんは寛いでいって下さい。
気に入った物がありましたらお貸しします。その辺はお好きにどうぞ」

 そのまま玄関を閉めようとする西園は、不意に押し留められる物凄い力にぎょっとする。みるとドアの隙間から
笹瀬川が茹で上がった顔を突き出して、酸欠の魚のように口をパクパクとさせていた。

「おおおおおおおおお待ちなさいっ! わたくしも……いっ、いっ、いきっ」

「イきそうですか?」

 ボケる西園を、佐々美が張り飛ばしたのは言うまでもない。



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