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 翌日。
 古式みゆきに会いに行くのは、たくさん時間を取れる昼休みを選んだ。
 佐々美は早いうちに昼食を済ませ、昨日と同じように所定の場所で鈴と落ち合う。
 しかし、妙なことになってしまった。果たしてこれからどうなるのか。
「ふぅ……昨日は色々あって、疲れた」
 鈴は会ったとたん、とてもすっきりとした表情でそんなことを言った。
 昨日、いったい男子寮でなにが起こったのか。ちょっと怖くて聞けなかった。
「そういえば古式みゆきさんって、少し前に自殺騒動を起こした生徒でしたわね。フルネームを聞いて思い出しましたわ」
「ん、そうだったのか? あたしは忘れた」
「忘れたってねぇ、あなた……。まぁ、あなた方には別の事件がありましたから、仕方ありませんですけど……」
 だとしても、ちょっぴり冷たい鈴の言い方に、閉口する。
 謙吾の恋人であるらしい古式みゆきは、一学期に屋上から飛び降り自殺を図ったことのある生徒だ。
 だが、実際に飛び降りはしたものの、落ちた先が樹の茂みとなっており、それが運よくクッションとなってくれたおかげで、古式は片足を骨折しただけで済んだ。
 今ではその怪我も完治し、無事学校に来られているという話だが、元気になったという話は聞いていない。
 クラスの噂では、たびたびカウンセリングなんかも受けているんだそうだ。
 佐々美は実を言うと、こういう繊細そうな手合いはちょっと苦手だった。
 けれど、
「暗いやつ、っていう話だけは聞いとるぞ」
「……いや、それって、古式さんが傷つくかもしれないからよしてくれ、って宮沢様に言われたことでしょう……なんでその部分だけしっかり覚えてるんですの」
「わからん」
 この無神経な子猫には、絶対に任せておけない。
 自分が頑張らねばならないということに、佐々美は胸が重かった。








「ここですわね……」
 ほどなくして、2−Bに到着する。
 謙吾の恋人、というだけでなく、色んな意味で胸が重くなりそうな相手だけに、扉を開くのが若干ためらわれた。
 だが、ここで情けなくも怖じ気づいているだなんて思われると、後ろの鈴に馬鹿にされてしまうので、佐々美は深呼吸をした後一気に扉を開け放った。
「……っ」
 特別、静かでもなく、騒がしくもないクラスだった。
 普通だ。
 他のクラスと同じように、何人かのグループが集まって弁当箱を開いており、佐々美がやって来たとたん一瞬こちらを見つめてきたが、すぐにみんな興味を失ったように、顔を戻して、時折談笑したりしながら、それぞれ食事を続けていった。
 古式みゆきと思われるような目立った生徒は、一見どこにも見あたらない。
「すみません、ちょっといいですの?」
 佐々美は取りあえず、一番近くにいる女子に声をかけてみることにした。
 その女子は、何事か、とこちらに振り向き、
「……はい?」
 佐々美の顔を、凍らせた。
 右目に、眼帯。
 どこかで見たことのある顔だった。
「……古式みゆきさん、という方はこのクラスにいらっしゃいますの?」
 そう佐々美が尋ねると、その眼帯をした少女は、よく見ていないと判別できないぐらいに、ほんのちょっぴりとだけ首を動かして、こくんと首肯した。
 ひょっとすると、もしかしてこの子が――。
「どこにいらっしゃいますの? その古式さんという方は」
「……あの、私です……」
 ビンゴ、だった。
 この消え入りそうな声の主が、古式みゆき本人だった。
 その肌は、声色と同じく、ひょっとすると今にも透けて消えてしまいそうなほどに白く、儚げ。
 右目が痛むのか、眉根をほんの少しだけ寄せていて、一見するとほんのちょっと不機嫌そうな顔をしているように見えなくもないこの少女は、確かに古き良き時代のご令嬢、といった風貌をしていた。
 後ろでポニーテールに結んだ紫紺の髪が、風に触れてさらさらと揺れている。
「あの……私に、なにかご用でしょうか?」
 さて、どうしたもんだろうか、と佐々美が言葉に詰まっていると、背後にひそかに配置されていたリーサルウェポンが、ぬっと身体を前に出してきて、
「あなたが犯人……ってわけですな」
 などと渋く極まったベテラン刑事みたいな声で言うもんだから、佐々美は思わずグーで殴ってしまった。
「なにするんじゃ、ぼけっ」
「あなたがいったいなにするんですの! 刑事ドラマじゃないんですから、少しは静かにしていなさい!」
「な、なにぃ……だって、こいつが犯人じゃないのか?」
「それを今から確かめるんですわよっ!」
 もう一度チョップして馬鹿を黙らせると、古式みゆきはまた細々とした声で「犯人……?」と、聞き返していた。
 佐々美は引きつった笑みを浮かべ、ぶんぶんと手を横に振ってそれに答える。
「い、今の言葉は、忘れてくださると助かりますわ」
「はい、わかりました……。忘れます」
「……」
 潔い、というより――まったく佐々美たちに興味ないといった様子だった。
 古式みゆきは、混じり気のない瞳で佐々美たちの顔をじっと見すえると、やがてそっと顔を逸らし、さっきまで続けていたらしい読書を再開した。
 昼食時なのに――なにも食べてないのか、こいつは。
「あなた、なにを読んでいらっしゃいますの?」
 いいからこっちを向け、という意味を込めて、佐々美が尋ねる。
「太宰治の『人間失格』ですが……なにか?」
「う……そ、それはまぁ、なんともタイムリーでございますことね……ほほほ」
 白々しい空気が流れる。
 なんとも暗い雰囲気を持った少女に、佐々美はだんだんと辟易してきた。
 いくらなんでも、自殺しようとした直後にそんなものを読まなくてもいいだろうに。また自殺したくなってくるんじゃないだろうか。
 あるいは、同じ自殺を試みた者として、なにか共感できるものを見つけようとしているのか。
 どっちにしろ、健康的な作業ではない。
 こっちの胸まで重くなってくる――なにか、謙吾の話題に結びつけられるようなものはないか、と佐々美はおずおずとしながら、口を開く。
「そういえばその本……私も昔読んだことがありますわ。人間の心を理解できない方が、その発覚を恐れて道化を演ずる、といった話でしたわね? 読書感想文で指定されたんですの」
「そうですか。では……あなたはこれを読んで、どう思われましたか?」
 古式は、初めてこちらに興味を持ったというように、くるりと綺麗な瞳を向けた。
 よっしゃしめた、と佐々美は内心ガッツポーズし、この会話の主導権を握るため、しゅばばばっと一気にお嬢様スタイルを構築。
 その左手は腰のあたりに、そして右手は口元へ――。
「うふふ……おーっほっほっほ! こんなの、私には全然わかりませんわ、年頃の女には、もうちょっと気の利いた恋愛小説でも寄こしなさいな、と原稿用紙にでっかく書いてやりましたの! ざまぁ見ろ、ジジイ趣味の国語教師め! って感じに私、その後大きく叫んでやりましたわ! おーっほっほっほっほっ!」
「……ジジイ趣味ですみません」
「え、あっ……ちょ……」
 明らかに失望したような顔をしている古式に、佐々美は思いっきり狼狽する。
 どうやら失敗した――らしい。
「私には……少し難しいですが、彼の気持ちがほんのちょっとだけわかります。生きていることが恥だ、という言葉には、なにか深く共感できるものがあります。もう……五回も読んじゃいました」
 どうやら古式にとって、太宰治の『人間失格』は愛読書になっているらしい。
 そっと物憂げに目を伏せている様子は、とても格式高く、すみれの花のような静謐な美少女として映っているのだが――その実、中身はドロドロ――ではなく、ちょっとヘビー級な方であったようだ。これでは誰も周囲に寄りつくまい。
 こんなやつの世話を、佐々美たちに押しつけたようとした謙吾の気持ちも少しだけわかる気がした。
 さて、もう佐々美には打つ手がなくなってしまった。
 佐々美と古式の間には、依然として白々しい空気が流れている。
 取りあえず会話だけは続けてみよう――と、佐々美が半ばやけくそになりながらも、再び口を開いた瞬間。
「あの、それって、もしかして宮沢さんからのお勧め本で――」
「おまえ、謙吾の彼女なのか?」
 と、突如として背後のリーサルウェポンが火を吹いた。
 陰鬱で当たり障りのない会話を繰り広げる佐々美と古式の間に、いいかげんしびれを切らした鈴が割って入ってきたのだ。
 佐々美は「ばかっ!」とつぶやいて、鈴のことを手で止めようとしたが、
「私が……ですか?」
 もう遅かった。
 古式は、鈴の顔を食い入るように見つめ、だんだんと、先ほどのぼんやりしたような虚ろな表情から、より冷たくとげとげしい顔つきになって、そう低くつぶやいた。
 どうやら鈴の発したワードは、古式にとってタブーのようなものだったらしい。
 古式は、さっきよりも露骨に嫌悪感を示して、鈴と佐々美のことをきつく睨んだ。
「全然、違いますが」
 きっぱり、と一言。
 簡潔にして明快なその一言は、その内容の否定というもののほかに、もうその話題はうんざりだから帰ってくれ、といった苛立ちの意味も含まれているようだった。
 佐々美は、おずおずと続けて聞いてみる。
「えっと……でもあなた、宮沢さんとお仲がよろしいんでしょう? 恋人同士だという噂もありますわよ」
「それは、皆さんの勘違いです。宮沢さんは……ただの友人です」
 古式は、呆れ果てたように長いため息をついて、首を横に振る。
「実は……連日、あなた方のような女性が、私のところにやって来ています。何度も何度も……まったく同じ用件です。突然、一方的に暴言を吐かれたこともあります」
 これには、佐々美のほうも驚いた。
 どうやらこの二人の恋愛説は、もともと最初から有名な話だったらしい。
 そういえば昔、謙吾がとある女の子と校舎裏で密会している、という噂を小耳にはさんだことがあった。
 その女子が古式みゆき本人だったのだろうか――。
「私のことは……もう放っておいてくれると嬉しいです。納得がいかないんでしたら、宮沢さんとはもう二度と関わらないと誓います。ですから……もう帰ってください。さようなら」
 そうして古式は、ゆっくりと寂しげな顔つきになって、本のページに目を落とした。
 佐々美はその前で、茫然と立ちつくす。
 作戦はこれで成功した。
 本人は、もう謙吾に関わらないと言っている。
 ならば、いちいち彼女に危害を加える必要もない。本人快諾の上で、佐々美は堂々と、謙吾に対してアタックをかけれるようになった。
 誰もまったく傷つかない、佐々美が考えた中でももっとも素晴らしいハッピーエンドだ。
 けれど、なぜだろう。
 胸が、どうしてもすっきりとしない。
 ちりちりと灼けつくような痛みが、いまだ心の奥にくすぶっている。
 佐々美の隣で、鈴がつまらなさそうに口を開いた。
「謙吾に、おまえと友達になってやってくれと言われた」
 それを聞くと古式は、机の本に目を落としたまま、さらに不機嫌そうに顔をしかめる。
 そして、
「あなた方は……宮沢さんに頼まれてここに来たというわけですね」
 もう一度顔を上げて、こちらを厳しい目つきで睨む。
 不愉快で不愉快で仕方ない、といった様子だ。
「もう帰ってください。そんなお節介……いりませんから。私はもう、特別な存在ではありません。普通の高校生になりたい……平凡な古式みゆきです。だから、もうこんなことしなくたっていいんです。いいかげん、ちょっとしつこいと思います……宮沢さんは」
 しつこい、と古式は吐き捨てるのだった。
 そして、もうこちらの存在など目に入らないというかのように、古式は静かに読書へと戻った。
 ぺら、とページをめくる音がする。
 佐々美はようやっとこのとき、胸の中にあるちりちりとした痛みの正体に気づくことができた。
 きりっと顔を引き締めて、いつものように尊大な態度で言葉を投げかける。
 おどおどとした、弱気な笹瀬川佐々美はもう終わりだ。
「これが最後の質問ですわ……古式さん。あなた、本当に……最近噂になっている宮沢さんの恋人と違うんですのね?」
 古式はこちらに視線すらも寄こさず、淡々と吐き捨てる。
「ええ。人違いでしょう」
 佐々美の瞳が、きらーんと怪しく光った。
 隣にいた鈴を手招きして呼び、ごにょごにょごにょ――と小さく耳打ちをする。
 すると鈴はふくれっ面ながらも、少しだけ楽しそうな顔つきになり、もう一度佐々美にこしょこしょこしょ、と耳打ちをした。
 すなわち――あたしもそう考えてた、と。
 佐々美は鈴に向かって不敵な笑みを見せ、ここだけの握手を交わそうと、右手を差し出す。
 だが、鈴に手をつねられた。
「?」
 古式は、不審な動きを続けている二人に対して一瞬怪訝そうな視線を寄こしたが、特別なにもないとわかると、さっさと消えてくれでも言いたげな長い溜息を吐き、読書に戻った。
 鈴への仕返しを手早く終えた佐々美は、もう一度鈴の目を見てうなずき、軽く準備運動をする。
 その間に鈴は所定のポジションへ。
「え……? ちょ、ちょっと、なんですか?」
 背後に立った猫型ロボット――もとい、棗鈴の存在に気づいた古式は、見るからに顔を狼狽させ、恐怖に肩をすぼめる。
 不当な暴力でも振るわれると思ったのだろう。
 だが、自分はなにも悪いことをしていないはず――だったら逃げる道理もないだろうと、ゆっくりと顔を正面に戻し、びくびくとしながらも頬杖をついて「ふ、ふんっ」とわかりやすすぎる強がりを張った。
 そんなことをしている間に、もう佐々美のほうも準備オーケー。
 お互いに健闘をたたえるサムズアップを交わし、鈴が二、三度腕をぐりんぐりんと回すと、
「へ? わ……きゃ、きゃあっ!?」
 まるで羽交い締めにするように、古式の脇の下に腕を回して、その身体を持ち上げた。
 にしても、可愛い悲鳴を上げやがるぜ――と、佐々美はしめしめ笑いながら、そのままずるずると椅子から引きずり降ろされる古式に、ゆったりと近づいていく。
 ミッション、スタートだ。
「ちょ、な……ななななな……っ?」
 怯えきったハムスターのように小さく身体を震わせている古式を見て、佐々美はふんわりと柔らかく微笑む。
 なにが起こっているのか、さっぱり理解できないんだろう。
「そういえば……古式さん。さきほどあなた、普通の高校生になりたいって言ってましたわね」
「え? え、えええっ……そ、そうでしたっけ……っ」
「うん、言ってたな。ちゃんとあたしは聞いてたぞ。普通の高校生になりたいって」
「そういうことですわ。で、そんなわけですから、古式さん――」
 佐々美はそこでふっと言葉を切り、優雅に髪をかき上げて、ゆったりと古式の足下にしゃがみ込む。
 これが謙吾の恋人ってやつの生足か――と、一瞬ハイエナのように嫌らしく値踏みした後、佐々美はその生足を引っ掴み、
「あなたを……普通の高校生に、して差し上げますわっ!」
「え? わ、わわ……? きゃ、きゃあぁぁぁ――――――――っ!?」
 よっこいしょ、と古式の身体を宙に持ち上げた。
 それに続いて鈴は古式の頭のほうを持ち上げ、佐々美は代わりに足のほうを支える――そして古式は、二人の手の上で横たわる形になり、わっしょいわっしょいと胴上げのように担がれるのだった。
 混乱して暴れ出そうとする古式の下で、鈴が少し驚いたような声を上げる。
「あれ……なんだおまえ、めっちゃくちゃ体軽いな。ちゃんと毎日飯とカップゼリー食ってんのか?」
「ひ……おっ……落ちる落ちる、ちょ、ちょっと待って……っ、お……お、落ちちゃいますよぉ――っ、ひゃぁぁ――――っ!?」
「おーっほっほっほ! どうですの!? これがあなたのお望みの、普通の高校生活でしてよ!? た、だ、し……これはあくまで、私たちにとってのですけどねえっ! お――っほっほっほっほ!」
 そうして佐々美たちは、ひょろひょろの古式を担ぎ上げながら、るんるんたった〜、と廊下へ躍り出ていく。
 上方に横たわったままの古式は、「ふぇぇぇ――っ!?」とスカートの裾を押さえてじたばたと暴れているが、それに少しイラっときた佐々美が高度をちょっと上げ下げしてやると、とても大人しくなった。代わりに震えがいっそう強くなったが。
「こらっ、男子共! 近寄るんじゃありませんことよ! ここに女子ソフト部のエース、笹瀬川佐々美の友人がお通りになりますわっ!」
 こんなふうにわっしょいわっしょいと御神輿状態で友人もなにもないが、さっきから本人の努力もむなしく古式のスカートがばんばんめくれ返っているため、一応は周りに注意をしてやる必要があった。
 佐々美の一喝によって、いったい何事かと集まってきたギャラリーたちが、おおうと引き下がる。
 前方にいる鈴は、本当にわっしょいわっしょいと叫んでいた。
「わっしょーい、わっしょーい!」
「ちょ、も、もももっ……もう降ろしてくださいっ!? し、死んじゃうぅぅ、きゃぁ――――――――っ!」
「あーら、なにを言ってるんですの? あなたって、一度屋上から飛び降りたんじゃありませんの? だったら……これくらいで死ぬとか言ってんじゃありませんことよ!」
 情けないセリフに再びイラっときたので、佐々美はぴょんぴょんとスキップしてやる。
 「ひーんっ!?」とついに悲鳴に涙が混じるようになり、佐々美はちょっとした快感を得るのだった。
 クラスのいじめっ子のような意地悪い表情を浮かべ、佐々美は前方の鈴に「棗さん!」と声をかける。
 そして、言われるまでもなく鈴は、
「わかった! すきっぷだな!」
 幸せそうな笑顔になって、スキップ行進をし出した。
「ええ、どんどんいきますわよ棗さん。私たちの友情を確かめるために、今こそ絆スキップですわ! そーれっ!」
「おー! すきっぷすきっぷ! じゃーんぷっ!」
「うきゃぁぁ―――――――――――っ!?」
 ついに古式も、女の子としての自我が崩壊したらしい。上げてはいけない悲鳴を上げるようになった。
 実際のところ、佐々美たちはちょっとつま先立ちを繰り返すぐらいにしかやってないのだが、上の古式にとってはそれですらも数千倍の恐怖だろう。
 これこそ、佐々美&鈴による『絆スキップ・ガールズver.』。男たちのもよりさらに危険度が増しているのは、佐々美の個人的な恨みつらみのゆえだ。
 この生意気女への復讐を果たすため、佐々美はさらに凶暴な笑みを浮かべ、ギャラリーが集まる廊下を「いぇいいぇーいっ!」と恥じらいもなく闊歩していく。
 慎み深き行動など、強敵を倒すためにはなんの意味も持たないのだ。
「ひっ……ふっく……。……ふっ……うぇぇぇん……だ、誰か助けてくださいぃぃ……っ」
 もはや古式は、ぽろぽろと涙を流すほどであった。
 そんな、男して胸にキュンっときてしまう光景を目撃した、ある勇敢でラッキーな下心満載の男子学生が、声高に叫び声を発する。
「あ……っ、い、いじめだっ! あそこでいじめが発生しているぞ! あの古式さんが、凶悪な女子二人にいじめられている!? おい誰か、今すぐ風紀委員と先生を呼んできてくれ! 急ぐんだ!」
 それを聞いた佐々美は、ちぇっ――と舌打ちをした。
 この学校の生徒も、なかかなかどうして、優秀なもんだ。
 これ以上大事になったら部活がまずくなるぜ、と佐々美はとっさに状況を判断し、前方の鈴に指示を下す。
「棗さん! もういいですわ! 先生方が来る前に、とっとと古式さんの教室に戻りましょう!」
「おー! すきっぷすきっぷ!」
「って、スキップはもういいんですのよ! ほら、急ぎますわよ!」
 すでに放心状態となっている古式をそのまま担ぎ上げ、佐々美たちは急遽方向転換。めくれるスカートを手で押さえてやりながら、すたこらさっさ、とギャラリーの間を素早く逃げおおせるのだった。
 そしてその後、古式を含む周りの生徒に強く脅しをかけ、うまく難を逃れたことは言うまでもない。
 悪は必ず滅びる、とはいったい誰の言葉であっただろうか。
 とにかく笹瀬川佐々美の怨念、ここに成就である。



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