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「ここが潰れずにいるのもよくよく考えれば、得心がいくな」

 誰に言うでもなく呟いた来ヶ谷は、脱衣場でブラを外すと、照れもなくその裸体を剥きだしのまま、髪をアップにまとめている。
豊満な胸、整ったスタイル。予定調和的に銭湯の暖簾を佐々美もまた潜ってきたとはいえ、人前―――それも羨望の肉体美を
持ち合わせた相手を前にしては、自分のすっぴんを晒す行為は、佐々美でなくともかなりの覚悟が必要だろう。
 未だ髪を解く事すら出来ず、脱衣所入り口近くで凝固している笹瀬川を追い抜くと、西園が来ヶ谷に続く。
そして、何故か上着からではなくパンツからいそいそと脱ぎ始めた。

「ラブホテルでご休憩したカップルが、途中でここを利用して、“運動”前後の汗を洗い流すというわけですね。
娑婆に戻るために一度、“致した”穢れを落としたいというような潔癖症は、もう日本人の文化みたいなものですから。
生活に根ざした、そういった精神を汲んで、ここに銭湯が建っているのだとしたら……意外にここの経営者、
手腕は確かかもしれません」

「見た目の築年数から考えてもラブホテルの方が後に建ったのだろうが……共生している点では、ともあれ実に理に叶っていると
言えるだろうな。まさにマッチポンプ方式を絵にしたような構図ではないか」

「ん〜? マッチポンプ?」

 入場料に加え、番台のおばあちゃんからボッタクリに等しい価格で手ぬぐいを購入した小毬は、
下駄箱の方で頓狂な声を上げている。

「つまりだ、コマリマックス。田舎のパチンコ店の周りにキャッシング・ローン店が軒を連ねる景色を思い浮かべてみたまえ」

「……あぁ〜……」

 その比喩はどうなのだろうと思うものの、実際に笹瀬川も納得していたし、小毬も目から鱗のようだ。
 ようやく脱衣場に顔を出した小毬は、きょろきょろと辺りを見回した後、そのまま浴場へ向かう仕切り用の曇りガラスを
ガラガラと開けて、ちょっとした歓声を上げている。

「ふわ〜…。それにしても、こういうおっきなお風呂は久しぶり〜。ちっちゃい頃は何度か連れられてきたことがあるけれど、
なんだかこういう場所って昔のまんまだね」

「それに貸切だ。我々以外は誰もいないらしい」

「閉店30分前ですからね。意外に直枝さんたちも、それが目的でこの時間帯を選んでいるのかもしれません」

 いつもは寮の狭苦しい浴槽に浸かるだけの日々だけに、小毬のはしゃぎように少し眉根を寄せていた佐々美も、
その気持ちは充分に汲み取れた。テキパキと脱いでは逸る気持ちを抑え、浴場へと向かう来ヶ谷も西園も、つまるところは同じ
ような思考なのかもしれない。
 「とはいえ……」と、笹瀬川は溜息する。
 まさか男2人を追いかけて、銭湯くんだりまで来ようとは。


 * * *



 話は5分ほど前に遡る。
 直枝理樹と謙吾が男湯へと消えたことで、それを追おうと男湯の暖簾をなんの躊躇いもなく潜ろうとした馬鹿×3を
しょっぴいた佐々美は、電柱の影まで引きずって来て、真っ赤な顔で怒鳴り散らしていた。

「あなた達には恥じらいという物がございませんの!? 一体なにをどうすれば、殿方の方へ入ろうなどという行為が
できるのですか!?」

「笹瀬川さん。恥や躊躇いは私たちにとっては命取りです。その一瞬の思考停止が、壁サークルの新刊を逃すという愚考に
繋がりかねません。常日頃からの鍛錬を欠かしていては、いざという時の一歩が鈍ります。ですので、ここは前進ある
のみ。それ以外の選択肢をかなぐり捨ててこそのオタというものじゃないでしょうか」

「旅の恥は掛け捨てとも言うだろう。それに理樹君の裸が拝めるのなら、他人に裸を見られようとも、私は男湯で
一緒に入ることを選択するが?」

「『恥じらい』……そんなことを考えていた時期が、私にもありました」

 懲りた様子のない流れ星シスターズ(上から西園、来ヶ谷、小毬)の末期具合に佐々美は天を仰ぐ。今更、西園の甘言に
かどわかされてついて来た事を後悔するも、時すでに遅し。

「しかし、笹瀬川君の意見(?)も正論ではあるな。温泉回といえば、覗きは定番。むしろそれを省いて「混浴でした」
「あっさりと覗くことができました」的なシチュは如何せん背徳的な味わいが薄れてしまう。どこぞのAVのように、過程
を省いて既にやらかしていたりする場面が初っ端からあるようでは、雑食の私でも正直、萎える」

「混浴という設定は嫌いではないですが、恥じらいの描写を巧みに描ける人間でないと、面白みに欠ける場合が
多々ありますからね。それに“おすわり”の時間の我慢汁の最適分量は、読者の個人差にも拠りますし。早漏過ぎて、
挿入前に顔射してしまっては余韻も糞もありません。……いえ、それもそれでありだとは思いますが」

 白熱する聞くに耐えない議論に耳をふさいでいた佐々美は、「2人とも、少しは真面目な話をしようよ!」と
珍しく理知的な小毬の反応に驚きを隠せない。

「いい? 私達がここに来ているのは、そんな異性間の恋愛を書くためのネタ探しなんかじゃないんだよ!?
読者が望んでいるのはオスとオスのまぐわい! 心理的な駆け引き! そして抗いながらも堕ちて行く彼らの行く末なの!
メスなんてそもそもサブ的な立ち位置でしかないキャラに感情移入する人なんてBLに限ってはいないんだから、
早く商業誌の方を終わらせるためにも、2人にはもっと違う次元で妄想を掻き立ててくれないと困るよっ!!」

「す、すまん。私とした事がつい……」

「調子に乗りすぎましたね」

 小毬に叱責され、肩を落としている2人とは別に、佐々美もまたガックリとうな垂れていた。

「ほんの少しでも、あなたに期待した私が馬鹿でしたわ……」

 気を取り直した来ヶ谷は言葉を選ぶ。

「では真面目な話をするが……銭湯回をBLに取り入れるのは新規性があってなかなかに面白いと私は思う。
閉店間際の時間帯を狙ってコトを成している2人。それが徐々にスリルを求めて、一般客の出入りの多い時間帯を狙って
濃密な絡みを求め合うようになるというのはどうだろう?」

「新刊でようやく尚江リクを堕とし終えたばかりですからね。ここまでは押しの一手でしたから、次回の序盤は一歩引いた感じで
ソフトな描写から始めるという来ヶ谷さんの提案―――ありです」

「ん。情景描写にリアリティを与えるためにも、内部構造はある程度、実地で見ておきたいし……。
じゃあ、銭湯に入るのは確定でいいのかな?」

 小毬の言葉に来ヶ谷は首肯する。

「うむ。そしてあわよくば、2人の会話の収集&覗きだな。この銭湯の建築方式だと天井付近が刳り貫きで、
男子と女子の浴場が繋がっているタイプだろう。足場さえ何とかすれば、覗くことはそれほど難しくはあるまい。あとは―――」

「覗いたときに2人がいちゃついていれば良し、絡んでいれば最良」

 ぐっと親指を立てる西園に、にやっと笑った来ヶ谷は、

「うむ。では、ミッションスタートといこうか」

恭介の声音を真似て、女湯の暖簾をくぐっていた。


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